はねなしガチョウのぼうけん
哀愁と優しさの漂う絵本です。
読み聞かせ目安 中・高学年 13分
あらすじ
ポッテリピョンという名前のガチョウの夫婦に、6羽の赤ちゃんが生まれました。
赤ちゃんたちはみな、とてもよく似ていたのですが、1羽だけ、メスのガチョウのボルカだけ、羽が生えていませんでした。
お医者さんに診せても、原因はわかりません。
お母さんガチョウはボルカのために、毛糸で羽を編んでやりました。
赤ちゃんガチョウたちは大きくなって、みんな飛んだり泳いだりできるようになりましたが、ボルカだけはできませんでした。
毛あみの羽ではいじめられるので、みんなの仲間に加わって、飛んだり泳いだりできなかったのです。
夏が終わり、ガチョウたちは南へ飛んで行く時期になりました。
けれども、飛べないボルカはいけません。
みんなが飛び立っていくのを、ただ見守るだけでした。
ひとりぼっちになったボルカは、入江へ歩いていき、雨をしのぐため、1艘の船に乗り込みます。
船には犬のファウラーと、マッカリスター船長、仲間のフレッドがいました。
ボルカはすぐにみんなと仲良しになり、船での仕事を精いっぱいやりました。
船はロンドンに着き、ボルカは「キュー植物園」のガチョウたちといっしょに暮らすことになりました。
植物園のガチョウたちは、毛あみの羽を笑いませんでした。
ボルカは今、みんなと仲良く暮らしています。
読んでみて・・・
兄弟の中で1羽だけ、生まれつき羽のないガチョウのボルカ。
みんなに笑われいじめられ、冬が来て、一家が南へ渡っていくときも、ボルカだけ取り残されてしまいます。ボルカに毛編の羽を編んでくれたお母さんでさえも、忙しすぎて、ボルカがいないことに気づきませんでした・・・。なんとも哀れで悲しいお話です。
重層的で深みのある色の絵も、ボルカの心象を表しているようで、抽象画のような風情が感じられます。
夏が終わり、みんなが飛び立とうとしている風景は、夏の緑の上に、秋めいたエンジ色が重なって、空気が冷たく湿り気を帯びてきているのがよく感じられ、まるでボルカの寂しさを表しているかのようです。
みんなが飛び立っていく夕空は、真っ赤な空にガチョウたちの姿が幾何学模様のように広がって、ちょっとシャガール的な抽象性さえ感じられます。下に広がる湿地の湿り気や冷たさも、ボルカが浸される世間の冷たさを表しているように感じられます。
秋の冷たい空気の匂いと哀愁。
そんな何ともいえない切なさが、絵本全体から漂ってきます。
でも・・・寂しいボルカのお話ではありますが、寂しさばかりではありません。
ひとりぼっちになって途方に暮れていたボルカが、何気なく行った入江では、素敵な出会いが待っていました。
一見怖そうな犬のファウラー、乗り込んだ船の船長さん、乗組員のフレッドは、みな快くボルカを迎えてくれて、最終的に行き着いた植物園でも、ボルカは暖かく迎えられることになります。
絵も、やはり重層的な色の連なりで、複雑な色が心象風景をなしているようですが、だんだんと暖かみが感じられるようになっていきます。
赤い舟に乗るボルガ一行は、物言わずとも満ち足りた雰囲気に溢れ、ここでも背景は夕焼けですが、とても柔らかく優しいピンク色の夕焼けです。
植物園に着いたボルカは、背景の白も手伝ってか、すっきりとしていて、居場所がみつかり、気持ちがすっきり落ち着いた感じが伝わってきます。
仲良しになったフェルディナンドというガチョウと並んだボルカの、幸せそうな顔!
生まれたときから、寂しく辛い思いをしてきたボルカの、これからの生活が幸せに満ちたものになるだろうと感じさせ、ボルカ本当によかったねと心落ち着く結末です。
これまでボルカの孤独な心に寄り添って読み進めてきた子どもたちも、安心して気持ちを解放することができるでしょう。
哀調を帯びた絵本ですが、悲しいばかりでなく、ユーモアも利いています。
ボルカのお父さん、ポッテリピョンの旦那さんが、奥さんのポッテリピョンが、卵を暖めているとき、敵が来ないか見張りをしていますが、ときに何の危険がなくても、シューっと音を立てて、「りっぱなことをしてるんだぞ」いう気になっているのを描いたりして、男の人の子育ての「やってるつもり感」に思わずくすっとしてしまいます。
「ポッテリピョン」という名前も、ポッテリしたお腹、ピョンピョン跳ねる姿を連想させ、ユーモラスでほっこりしてしまいます。
ボルカをはじめガチョウたちや、犬のファウラー、マッカリスター船長、フレッド、登場人物(動物)の表情も、ごくさりげない線描きの絵ですが、豊かに感情が伝わってきて、性格がよく描き分けられています。
色遣いとしては、重層的でときに繊細で、芸術性の高さを感じますが、絵でもユーモアを忘れず、ガチョウの兄弟を紹介する見開きページは、明るくカラフルな色遣いにまぎれて、落書きのような青い線描きのお花が散りばめられていて、楽しく愉快です。この見開きが、前後の表紙の見返しにも使われていて、絵本全体を包んでいるのも、哀調が主調の絵本に、暖かみとユーモアを与えていて、親しみやすさを感じさせるものになっていると思います。
仲間外れにされ、置き去りにされるという、子どもにとっては最も切実で、辛く悲しいテーマを扱ったお話ですが、さりげないユーモアと、ほのぼのとしながら情感のある絵、心から安心できる結末で、子どもの琴線に触れる、調べのある絵本だなと思いました。子どもの繊細な心に響く、素敵な1冊だなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『ボルカ』
ジョン・バーニンガム作 木島始訳
1993.12.1 ほるぷ出版 でした。
ボルカ | ||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。