はじめてのプーさん
おなじみのプーさんのお話を、1話ずつ絵本に仕立てたものです。
プーのはちみつとり | ||||
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読み聞かせ目安 中学年・高学年 ひとり読み向き
あらすじ
クリストファー・ロビンが、お父さんからお話を聞きます。
クリストファー・ロビンが大事にしている、ぬいぐるみのクマのプーのお話です。
もちろん、クリストファー・ロビンもでてきます。
むかしむかしの大むかし、この前の金曜日のこと、プーが森を歩いていると、大きなカシの木の周りに、ミツバチがブンブン飛んでいました。
プーは、ハチミツを取ろうと、木に登ります。
歌を歌いなが登っていくと・・・。
「あれッ!」
下に落っこちてしまいました!
プーは、クリストファー・ロビンのところへ行きました。
風船をもらおうと思ったのです。
青い風船をもらったプーは、風船を膨らまし、空へ向かって高く高く登ります。
高く登って、木の上のハチミツを取ろうとしましたが・・・、残念ながら届きませんでした。
次は傘!
クリストファー・ロビンに傘をさしてもらって、ミツバチが「雨かな?」と思ったすきに、ハチミツを取ろうと思ったのです。
でも、ハチが違っていたようで、どうにもなりません。
自分の考え違いに気づいたプーは、空から降りようと思いました。
クリストファー・ロビンに、鉄砲で風船を撃ってもらって、プーは地面に降りました。
ずっと風船にぶら下がっていたプーは、腕が上を向いたまま突っ張ってしまって、その後1週間以上もそのまんま。
ハエが鼻の先にとまっても、「プー」っと、口で吹き飛ばすしかできませんでした。
それで、「プー」という名前がついたようです。
読んでみて・・・
みんなが大好きな、『クマのプーさん』の入門編として作られた、「はじめてのプーさんシリーズ」絵本の1冊目にあたる絵本です。
今ではすっかり、ディズニーのキャラクターとして有名になったプーさんですが、本家はA.A.ミルン作の『クマのプーさん』(1926)という児童小説。この『プーのはちみつとり』は、その『クマのプーさん』の、いちばん最初のお話です。
「そうら、クマくんが、二階からおりてきますよ。バタン・バタン、バタン・バタン、」
クリストファー・ロビンに、引きずられるようにしてプーさんは登場します。
そうです。クマのプーさんはぬいぐるみ。プーさんのお話は、お父さんが息子のクリストファー・ロビンに、息子とぬいぐるみのプーが登場するお話を、語ってやっているお話なのです。
なのでこのお話、語りがちょっと複雑です。語り手(「わたし」・お父さん)は、いちおう局外の語り手として、このお話を語っていきますが、その語りには、
「名のもとにって、なに?」
「プーが、よくわかんなかったんだよ。」
という具合に、間にクリストファー・ロビンからの問いや、意見が差しはさまれます。
「じゃ、さきを話すよ。」
お父さんである語り手からの、声掛けもあったり。
ぬいぐるみのクマのプーが、生きているクマのように自ら動き展開する物語世界の外側に、それを語っているお父さんと、聞いているクリストファー・ロビンの世界があり、その全体を総括する語り手「わたし」の世界があるという、3層構造になっているのです。
クマのプーが生きて動く物語に登場するクリストファー・ロビンは、それを語っているお父さんから「きみ」と呼ばれ、「〇〇」ときみがいった、きみは~と思って・・・という具合にお話が進んでいきます。お話の登場人物であり、聞き手である「きみ」=クリストファー・ロビンは、自分のことなのに自分の知らない自分「きみ」が、お話のなかで話したり、考えたりしている。語りの構造が込み入っているので、ぼんやり読んでいると、何が何で何が何?会話や物語展開が、最初はつかめない子もいるかもしれません。
『クマのプーさん』は児童小説で、この絵本も絵本という形はとっていても、『クマのプーさん』の1話を切り取っただけなので、分量が多く、基本的にはひとり読み向け。学校などでの読み聞かせにはむきませんが、もし、お家で読み聞かせしてあげるなら、ほんとうに子どもに語り掛けるように、ゆっくりと、お父さんがクリストファー・ロビンに語り掛けているような間合いで読んであげると、混乱せずに伝わりやすいかと思います。複雑な3層の物語構造も、自然と理解でき、ぐんと物語のなかに、入っていけるのではないかと思います。
また、このお話の筋をとらえにくくしているのは、プーのへんてこな論理!
プーさんは理屈屋で、ハチミツを取ろうとして登った木から落ちる時でさえ、落ちながら
「あれッ!」
「ああさえしなけりゃーー」
「だって、ぼくは、ああいうふうに、」
「そりゃ、もちろん、すこしはーー」
「やっぱり、ぼくが、」
「やっぱり、ぼくが、あんまりミツがすきだから、いけないのさ。あ、いたッ!」
と分析したり、説明したり、反省したり、あれこれ考えをめぐらせているのです。
そのプーさんの論理が、お利口で筋道の通った論理ならいいのですが、残念ながらプーさんは、あまり頭がいいほうではありません。プーさん独自のへんてこな論理が展開されるので、ここでも何が何??ぼんやり読んでいると、筋が捉えにくくなってしまうのです!
おなじみのクマのプーさんのお話ですが、お話の筋をつかんで楽しく読むのに、意外と読解力・注意力が必要な絵本なのです。
でも、プーさんのへんてこ論理も、物語構造の複雑さも、この絵本は、絵が十分におぎなってくれています。
絵は、児童小説として編まれた『クマのプーさん』の挿絵と同じです。でも、『クマのプーさん』を、幼い子どものための入門版として、分冊して絵本にするとき、画家のE.H.シェパードは、もともとモノクロであった絵にも、それぞれ彩色を施しました。
明るく淡い水彩が、優しく物語を彩り、ひとつひとつの絵が、それぞれの情景と、プーやクリストファー・ロビンの心情を伝えてくれます。
はちみつ取りに一所懸命木に登る、プーのおしりのかわいいこと!!
「あれッ!」と木から落っこちて、ハリエニシダのとげが刺さった背中を、うらめしそうに眺めたり、1週間以上も!風船に捕まった形で腕を突っ張らせていたりする様子も、とてもユーモラス!!
へんてこな論理展開のお話も、かわいいユーモアあふれる絵と、お父さんの優しく包み込むような語り口と合わさると、なんだかとても暖かく、なんとも洒落た味わいがでてくるのです。
このお話では、プーさんの名前の由来にも触れられていて、プーがずっと風船に捕まっていた手が、1週間以上そのまま突っ張っていたので、ハエが飛んできても、プーっと口で吹き飛ばさなければならなかったから、プーという名前が付いたとお父さんがいっています。とても愉快な名の由来ですが、「プーさん」の名の由来については、『クマのプーさん』の「まえがき」によると、『ぼくたちがとてもちいさかったころ』(1924)という童謡集に出て来る、クリストファー・ロビンが以前飼っていた白鳥の名前が、「プー」っだったこと。それから「Winnie the Pooh」の「ウィニー」は、クリストファー・ロビンが通っていた動物園にいたクマの名前だったことなども、記されています。
ちょっと物語の筋をつかむのに、読解力がいりますが、やっぱり、かわいくておしゃれで、楽しくて暖かいあじわいのあるすてきな絵本です。
お話の最初には、物語を聞きくこと、語られること(それも自分がでてくるお話!)を願う子どもの期待と喜びが。おしまいには、満足して2階へ帰っていく姿も、描かれています。
このお話を読む子どもたちも、きっとクリストファー・ロビンといっしょになって、お話が語られる喜び、それを見る聞く喜び、充足感を、存分にあじわうことができるだろうなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『プーのはちみつとり』
A.A.ミルン文 E.H.シェパード絵 石井桃子訳
2016.9.28 岩波書店 でした。
プーのはちみつとり | ||||
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クマのプーさん新版 | ||||
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