絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『ツバメの歌』

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ツバメへの一途な思い

ゆったりとした幸福感に満ちた絵本です。

            

読み聞かせ目安  高学年  15分・ひとり読み向け

あらすじ

カピストラノという小さな村に住む男の子ジュアンは、教会の裏の小さな学校に通っています。教会の鐘を鳴らす、ジュリアンおじいさんと仲良しで、いつもおじいさんからいろいろな話をしてもらっていました。

 

教会の庭には、おじいさんが育てた色とりどりの花が咲き、たくさんの鳥が巣を作っていました。

ジュアンは、鳥たちに餌をやってかわいがります。

なかでもツバメが大好きで、巣作りやひなの成長を、楽しく見守りました。

いちばん面白いのは、親ツバメが子ツバメに飛び方を教えるところでした。

 

やがて夏が終わり、ツバメたちは旅支度をはじめます。

 

「さよなら、ツバメ、またきておくれ、どうぞ、かみさまが、おまもりくださるように」

 

おじいさんと一緒に祈り、ジュアンはまた春になったら、ツバメが来てくれるように、花壇を作りはじめました。小さな池も、きれいな水でいっぱいにしておきました。

ツバメのいない冬はちょっと寂しく、空っぽの巣を見つめては、「ツバメの歌」を口ずさむのでした。

 

やがて暖かくなり、春が来て、辺りが花のいい匂いでいっぱいになってきました。

そして、セント・ジョセフのお祭りの朝!

ジュアンは、友達と歌ったり踊ったり、お芝居をしたりしながら、空を見上げ、ツバメが帰ってくるのを、今か今かと待ちました。

 

すると・・・空の彼方に小さな点々が見えてきました!

 

「きた、きた、ツバメがきた!」

 

何百羽ものツバメが、教会の上を輪を描いて飛び廻ります。

ジュアンとおじいさんは、鐘を鳴らし、春が来たことを告げました。

ツバメたちは嬉しそうに囀り、教会の庭は、またにぎやかになりました。

子どもたちは声を揃えて、歌を歌いました。

 

ジュアンが家に帰ると、ジュアンの家にも、ツバメが2羽、巣を作りにやってきていました。

 

読んでみて・・・

ゆったりとした優しい幸福感に満ちた絵本です。

 

舞台は、カリフォルニア州南部に位置するカピストラノという小さな村。

噴水と色とりどりの花々に囲まれた美しい教会の庭に、毎年春になるとやってくるツバメたち。このツバメたちを、見つめ見守り、愛を注ぐ、主人公の男の子ジュアンの一途なツバメへの思いに溢れた絵本です。

 

ツバメがやってきて、巣を作り、卵を産んで、ひなが孵り、やがて飛び立っていく。

お話としては、取り立てて変化のない、シンプルなお話なのですが、全編にジュアンという男の子のツバメに対する、純粋で一途な愛情、それを見守り導く優しいジュリアンおじいさんの愛情が満ちていて、淡々としながらも、豊かでおっとりと幸せな気持ちにさせてくれる絵本になっています。

 

ツバメを友のように思っていたジュアン。

ツバメがいない冬は、寂しくてたまらず、また会える日を心待ちに、庭を整え、「ツバメの歌」を歌います。

 

今か今かとツバメを待つジュアンの元に、セント・ジョセフのお祭りの朝、ちゃんと戻ってきたツバメたち。

朝焼けの中、春の花々が色とりどりに咲きほこり、花の香満ちたお祭りの日の教会の庭は、まるで魔法の庭のようです。

教会の鐘をひき、春が来たことを、ツバメが来たことを告げるおじいさんとジュアンの嬉しそうなこと!

2人の周りを飛び廻るツバメも嬉しそうです。

 

ごく単純なお話ですが、自然に心を向け、自然の営みとともに、誠実に1日1日を大切に生きる人々の喜び、自然と心が通い合う感動に、暖かく包まれます。

 

ただ、この絵本は「岩波の子どもの本」シリーズなのですが、「ロバの旅」というもうひとつのお話と一緒に収録されていて、原書に比べると、その良さも凝縮されている感があるのが、ちょっと残念なところ。

原書はもっと版も大きく、この絵本の伸びやかな美しさが、もっとおおらかに伝わってくるものになっています。

                    

大きな版見開きいっぱいのカピストラノ村の鳥観図(空飛ぶツバメから見た図でしょうか)の美しさ。

画面いっぱいに、春の彩り豊かな花壇と、水のきらめく噴水。白い建物が連なる教会。

なだらかな丘。そして片隅には、波よせる穏やかな海。

お話の最初のジュアンの登場場面も、原書の方は画面に十分な余白があるため、ジュアンが舞台の裾から登場してきたかのようで、はっとするような、ウキウキしたかわいらしさがあります。

夏が去り、ツバメたちが飛び去っていく場面の、見開きいっぱいの鳥観図も、夏の終わりの村の、少し寂しさを感じさせながらも悠々と広がる美しさ。

大きな版ならではの、ゆったりとした美しさがあり、また色目の出方も違って、原書の方がきれいで、モノクロページに施された赤見も、原書はピンクがかっていて、よりお話の優しさ、やわらかさが伝わってきます。

途中で2曲「ツバメの歌」の楽譜も載っているのですが、原書の楽譜はフォントが手描き風で、やっぱりよりお話の雰囲気が伝わってくるので、ぜひ原書の方も一緒に手に取ってみてもらいたいなと思います。(図書館に行けば、きっと原書のあるところも多いかと思います。書庫にあったりするかもしれませんが・・・。)

自然と心が通い合った暖かさ、安らぎが豊かに感じられる、美しい夢をみているような、ほんわりうっとりする絵本です。

大きなドラマチックな展開などはありませんが、きっと読む子どもたちの心に、ゆったりとした安心感を、与えてくれることだろうと思います。

                  

今回ご紹介した絵本は

『ツバメの歌』レオ・ポリティ文・絵 石井桃子訳 1954.12.10 岩波書店

『Song of The Swallows』Leo Politi 1948 Macmillan Publishing Company でした。

ツバメの歌

レオ・ポリティ/石井桃子 岩波書店 1987年09月
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