おやじさんのすったもんだの家仕事
主婦のうっぷんを晴らす?!愉快なお話。
すんだことはすんだこと | ||||
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読み聞かせ目安 高学年 15分
あらすじ
おやじさんのフリッツルは、おかみさんのリージーと、赤ちゃんのキンドリといっしょに暮らしていた。
フリッツルは畑仕事。お日様の照りつけるなかで、土を耕し、種をまき、草刈りし、牧草を刈って、束にして積み上げて・・・。毎日毎日働いた。
リージーは、家のなかで掃除にお料理。クリーム混ぜてバターを作って、牧場の動物たちの世話をして、それから赤ちゃんの世話。おかみさんの仕事も毎日たいへんだった。
でもおやじのフリッツルは、いつも自分の仕事の方が大変だと思っていた。
「ふーっ!きょうは、かんかんでりで、あつかったのなんの。そのうえ、しごとがきつかったのなんの。リージー、おまえさんにゃわからんだろう、おとこのしごとが、どんなもんか。おまえさんにゃわかっとらんよ!ところで、おまえさんのほうのしごとときたら、まったく、らくなもんじゃないか」
「ちっとも、らくじゃありませんよ」
そこで、おかみさんは仕事をとりかえっこしてみようと提案し、次の日、リージーは草刈り鎌をかついで、畑へ出かけていった。
おやじさんのフリッツルは、フライパンでソーセージを焼き始めた。
ソーセージを焼いていると・・・、フリッツルはりんご酒が飲みたくなった。そこで地下室へ行き、樽の栓を抜いてコップにりんご酒をつぎはじめた。
ところが・・・。「どたん、がたん!」台所で大騒ぎ!犬のスピッツが、ソーセージを奪って脱走!!フリッツルは追いかけた。
でも・・・。おやじさんはスピッツを捕まえられなかった。
「しょうがない。すんだことは、すんだことだ」
ところが、おやじさん。りんご酒のことを思い出した!
帰ってみると、地下室はりんご酒でひたひたに・・・。
「しょうがない。すんだことは、すんだことだ」
次はバター作り。桶をかき混ぜていると・・・。そうだ、牝牛はどうした?!
水やりを忘れて、牝牛はのどがカラカラ。お腹もペコペコ。
おやじさん、牝牛を小さな丘の横っ腹から、草の茂ったわが家の屋根に乗せ、草を食べされることにした。
すると今度は赤ちゃんが、バター桶をひっくり返し・・・。
「しょうがない、すんだことは、すんだことだ」
おやじさんは、畑で野菜をとって、スープ作りに取り掛かった。
すると・・・。またまたものすごい音!!
屋根の上で、牝牛が足を滑らせる。
落ちては大変!おやじさん、ロープで牝牛を括って、ロープのはしを煙突から垂らし、家の中からそのロープのはしを、自分のお腹に括りつけた。
これで大丈夫!と、おやじさんが思っていると・・・。
牝牛が屋根から滑り落ち、おやじさんは煙突に吸い込まれ、ぶらんぶらん!!
そこへ帰ってきたおかみさん。屋根からぶら下がった牝牛をみて、びっくり仰天!!
急ぎロープを切って家に入ってみると・・・。
おやじさんが、スープの鍋のなかに落ち込んでゴボゴボ・・・。
家のなかは、すさまじいありさまだったとさ。
読んでみて・・・
ヨーロッパで、よく知られる昔話です。
この絵本の冒頭には、
「これは、わたしがまだ小さな女の子だったころに、おばあちゃんが話してくれた、ふるい、ふるいお話です。おばあちゃんは、小さな女の子だったころに、おばあちゃんのおじいさんから、この話をききました。おばあちゃんのおじいさんは、ボヘミアのおひゃくしょうの子どもだったころに、おじいさんのおかあさんからききました。おじいさんのおかあさんが、どこでそのお話をきいたのか、しりませんが、ずいぶんむかしのお話だということが、これでおわかりでしょう。」
と書いてあって、ずっとずっと昔から語り伝えられてきたお話だということがわかります。北欧の昔話をあつめた『太陽の東月の西』(アスビョルンセン編 佐藤俊彦訳 1958.3.10 岩波少年文庫)にも「家事をすることになっただんなさん」というタイトルで、類話が収められています。
太陽の東月の西新版 | ||||
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主婦の仕事をバカにしていただんなさんが、かわりにやってみるとすったもんだ!
何ひとつまともにできず、失敗だらけ。奥さんの仕事がたいへんなものだったことを思い知るというお話。
昔話は、口伝で親から子へ、おじいさんおばあさんから子や孫へ、近所の語りじさ語りばさ、時には吟遊詩人のような語り部からと、人から人へ長く長く語り継がれてきました。このお話もそんなお話のひとつです。
「昔話」というと、とかく「子どものため」のもの、と思われがちですが、本来はそのほとんどが、「子どものため」に語られたものではありません。まだ現代のようなさまざまなメディアがなかった時代、大人が大人同士、自分たちが楽しむために語っていたものの中から、子どもに喜ばれるものが、形を整えながら伝えられてきたものがほとんどといわれています。
今回のこのお話も、いかにも大人が、それもおそらくは奥さん連中が、喜んで語っていたものという感じ。主婦の井戸端会議から生まれてきたようなお話です。
いつの時代も、主婦の家仕事は、どんなに手際よく上手にこなしても、どんなに身を粉にして働いても、社会的に評価されることも、報酬を得ることもないもの。それでも、日々淡々と家仕事をこなしていく奥さまたち。このお話を聞いて、胸がすく思いをする奥さんは、今も昔もきっとたくさんいることでしょう。
おやじさんのフリッツルは、男の仕事がいかに大変で立派であるか喧伝し、おかみさんのリージーの仕事をバカにします。たやすくこなせるものと思っていたら、とんでもないことに!
赤ちゃんは、バターでべとべと。犬はソーセージの食べ過ぎで具合が悪くなり、牧場の家畜は畑を荒らし、地下室にはりんご酒が溢れ、台所は野菜をむいた皮や鍋、皿が散らかりほうだい!極めつけは、屋根からぶら下がった牝牛と、大鍋でおぼれるおやじさん!!それはそれは、もう奇天烈!!といっていいほどのありさまです。
主婦たちが、日頃のうっぷんを、ユーモア溢れるお話を語り聞くことで、大笑いしながら晴らしていたんだろうなと感じます。
おやじさんのフリッツルは、何をやってもうまくできませんが、そのたびに
「しょうがない。すんだことは、すんだことだ」
とおおらかにあきらめて、最後は
「たのむよ、リージー、おねがいだから、のらしごとに、もどらしておくれよ。おれのしごとのほうが、おまえさんのよりたいへんだなんて、もう、けっしていわないから」
あっさりと自分の非を認め降参します。そして、その後は家族3人、仲良く楽しく暮らして、めでたしめでたし。
恨みつらみをくどくどいうことなく、カラッとドライに笑い飛ばす。細かい心情をとやかくいわずに、テンポよく楽しくお話が進んで行くのは、昔話ならではのいいところです。
この絵本は、語りのテクストもよく、冒頭に
「この本では、おばあちゃんが話してくれたとおりに、かいてあります。」
とあるとおり、いかにも語られてきた言葉という感じで、テンポよくリズミカルで簡潔、トントンとまっすぐにお話が進んでいくように書かれています。
絵も、白地に黒のみ。版画風なタッチで、素朴で野太く、そしてちょっぴり怖い感じもあって、昔話の雰囲気をよく伝えるものになっています。
子どもだけでなく、大人も楽しめる、愉快な昔話の絵本です。
大人もぜひ、昔話を取り戻して、日頃のうっぷんを笑い飛ばし、楽しめていけたらいいなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『すんだことはすんだこと』
ワンダ・ガアグ再話・絵 佐々木マキ訳
1991.5.1 福音館書店 でした。
すんだことはすんだこと | ||||
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