ロシアの昔話
むじゃきな男が幸福を得るお話。
読み聞かせ目安 高学年 20分
あらすじ
昔、ある村の年より夫婦に、3人の息子がいた。
上の2人は利口者。でも、1番下の末っ子は、世界一ばかだといわれていた。
おとっつぁんもおっかさんも、兄たちにはいろいとよくしてやったが、ばか息子には何にもしてやらない。存在さえ、忘れてしまうほどだった。
ある日、国の王様が、空飛ぶ船を持ってきた者に、王女と結婚させると、おふれを出した。
おとっつぁんとおっかさんは、兄たちに立派な服と白パンと、肉とウオッカを用意して、旅立たせた。
ばか息子が、「おれもいきたい。」といっても、誰も相手にしてくれない。
それでも、ばか息子があんまりせがむので、おっかさんは、黒パンと水を持たせて送り出した。
ばか息子は、上機嫌で街道を進んで行く。
すると・・・、なんとも大変な年寄りのおじいさんと出くわした。
ばか息子がおじいさんに、空飛ぶ船の話をすると、おじいさんは自分と一緒に食事をしようという。
ばか息子が、弁当の包みを開くと・・・、なんと不思議なことに、出てきたのは黒パンじゃなくて、柔らかい白パンと肉!水もウオッカになっていた‼
おじいさんとばか息子は、愉快に飲んだり食べたり。
それからおじいさんは、ばか息子に空飛ぶ船の作り方を教えた。
その作り方とは・・・、
森で最初に見つけた大木の前で、3回十字を切る。
斧で木を1打ちしたら、誰かが起こしてくれるまで、そこでのんびり眠っていること。
・・・、それだけ!
ただ、旅の途中で出会った人は、みんな船に乗せてあげること。
おじいさんと別れたばか息子は、さっそく森へ行き、おじいさんにいわれたとおりにやってみた。
すると・・・、小さな船が出来上がり、ばか息子は船に乗り込んで、空へと飛び立っていった。
ばか息子が、空を飛んでいると、世界中の音が聞けるという男と出会った。
ばか息子は、その男を船に乗せ、旅をつづけた。
それから、あっという間に世界を一跨ぎできるはや足男、1千キロ離れた鳥でも撃ち落とせる鉄砲の名人、大ぐい男に、湖もひと飲みのくじら男、たきぎを兵隊に変えるおじいさん、真夏の暑さを真冬の寒さに変えるワラをもつ男と次々出会い、総勢8人で空の旅!
そうして王様の城に着き、お目通りを願ったが、王様は、やってきた男たちが、みなむさくるしい田舎者だと知ると、大事なひとり娘を嫁にやりたくなくなって、男たちに無理難題をつけはじめた。
まずは、「いのちの水」を持ってこいという命令。
すると・・・、きき耳が聞き取って、はや足が取りに行き、はや足がさぼっているのを、鉄砲の名人が風車に留まったハエを撃って起こし、あっという間に王様の前に「いのちの水」は届けられた。
次に王様が、「牛のまるやき十二頭と四十かま分のパン」を一度に食べよというと、大ぐいがペロリとたいらげ、「一たるがバケツ四十ぱい分のブドウ酒四十たる」を飲めといわれれば、くじら男が一気飲み!
「やけ死ぬくらい熱いふろ場」に閉じ込めても、ワラの男がたちまし冷まし、
「王女と結婚するつもりなら、王女をまもれる、しょうこをみせろ。千人くらいは、兵隊をつれてきて、みせてくれ。」
といわれれば、たきぎ男が、あっという間に大軍勢を引き連れた。
王様は、もうすっかり怖くなって、ばか息子を王女様と結婚させることにした。
ばか息子は、王女様と結婚し、大金持ちになり、とても賢くなって、誰からも慕われるようになったとさ。
空とぶ船と世界一のばか | ||||
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読んでみて・・・
ロシアの昔話です。
力のない庶民が、権力者の無理難題を、超人的能力でもって難なくこなし、やりこめる。この記事の3つ前にご紹介した『王さまと九人のきょうだい』(君島久子訳 赤羽末吉絵
1969.11.25 岩波書店)にも通じるところのある昔話です。
超人的能力を持っているのが、『王さまと九人のきょうだい』が、兄弟それぞれであるのに対し、この『そらとぶ船と世界一のばか』は、偶然出くわした行きずりの男たち。その点では、同じくヨーロッパはドイツ周辺に伝わる、グリムの「六人男、世界をのし歩く」(『子どもに語る グリムの昔話2』佐々木梨代子・野村泫訳 1991.4.10 こぐま社)の方に、やはりより、似通っているようです。
いづれにせよ、洋の東西を問わず、力のない庶民には、とてつもない力で、権力者を打ちかましたいという願望が、昔からあったのでしょうね。
ロシアの昔話であるこのお話では、主人公であるばか息子は、何の能力も持っていません。持っているのは、たまたま出くわした男たちだけ。
ただ、ばか息子は、とにかく無邪気。
ばか者として扱われていても、人を恨んだり憎んだり、疑ったり不満を抱いたりはしません。また、不遇を嘆きもせず、自分を卑下したり、自暴自棄になったりもしません。
旅のはじめに出会ったおじいさんを、素直に受け入れ、乏しい食べ物を気前よく差出し、共に楽しむ。教えられたことも、素直に受け入れ行って、とんとん拍子に話は進み、幸福へと導かれていきます。
このお話ははじめに、
「神さまは、むじゃきな人間がおすきだ。さいごには、なにもかも、むじゃきな人間によいようにしてくださる。この話をきけば、それがよくわかる。」
とあります。
おじいさんとの食事のとき、黒パンが柔らかい白パンに、水がウオッカに変わっている場面でも、
「神さまが、むじゃきな人間に目をかけてくださることが、これでおわかりじゃろ。あんたのおっかさんは、あんたをかわいがっちゃくれないが、あんただって、福のわけまえから、はずされてはいないのさ。」
と、むじゃきであることが讃えられ、むじゃきであることに、人としての価値が与えられています。
ばか息子は、その後も何も疑わず、おじいさんにいわれたとおりにします。出会った人たちもみんな、それぞれずいぶん癖があって、怪しさ満点の人物たちですが、何も疑わず、みんな分け隔てなく空飛ぶ船に乗せていきます。
そして、万事上手くいく。
「六人男」の主人公に感じられる狡猾さも全くなく、とにかく善良むじゃき。
愚人礼賛のような、「神聖な愚人」を讃える民俗性のようなものを感じます。
このお話は、『ツバメ号とアマゾン号』シリーズなどで知られる、イギリスの児童文学者アーサー・ランサム(1884.1.18~1967.6.3)によるもの。
ランサムはもともと、ロシア語を学ぶためにロシアへ渡り、新聞記者となって、ロシア革命を本国へ伝えるなどの活躍をした人物。でも、文筆業を志した当初から、子どものための物語を書きたいと思っており、ロシアの昔話に惚れこみ、ロシア語を学ぶきっかけになったのも、ロシアの昔話とのこと。
この絵本は、ランサムの、ロシアの昔話への、愛と賛美が込められているように感じました。
同じような話型のお話でも、お国柄が出て、それぞれ違って、それそれの良さがあって、発見があって、面白いものだなと思います。
共通するもの違うもの、読む人もいろいろなことに気づき、考える。そういった力のある昔話は、いつでもどこでも色あせない、魅力があるものだと再確認したような気がしました。
今回ご紹介した絵本は『空とぶ船と世界一のばか』
1970.11.20 岩波書店 でした。
空とぶ船と世界一のばか | ||||
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