絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『竜の子ラッキーと音楽師』

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愛の歌と癒し

 愛するものへの一途な思いが美しく描かれた絵本です。

            

 読み聞かせ目安  高学年  ひとり読み向け

あらすじ

ある春の日、ひとりの旅の音楽師が海辺を歩いていると、バラ色の斑点のあるクリーム色のきれいな卵を見つけました。

中では、今にも何かが孵りそうで、何かさえずっている声も聞こえます。

でも殻は頑丈でなかなか割れません。

 

音楽師は、手助けにならないかと思い、竪琴を卵に向けて演奏しました。

すると・・・、卵はもごもご動き、中にいるものは殻を突き・・・、とうとう割れて中から見たことのない奇妙なものが生まれました!!

 

子ネコくらいの大きさで、緑の皮膚に、長いしっぽ、背中にはいずれ翼になりそうな膨らみ。

 

「おまえは竜の子にちがいないね!」

 

音楽師は、竜の子に自分の食べ物を分け与え、ラッキーと名付け、いっしょに旅することにしました。

 

村から村へ。町から町へ。音楽師とラッキーは美しい音楽を奏でながら旅をしました。

音楽師の奏でる音楽は、ラッキーという愛すべきものを得たことで、今までよりもっとすばらしい音を奏でるようになり、ふたりはとても幸せな旅を送っていました。

 

そんなある日。ふたりがある村へ着くと、竜の子を連れた音楽師が宿屋にいると聞きつけた村人たちが、宿屋に押しかけてきました。

その中には、ラッキーを奪って、見世物にし、果ては売り飛ばして金儲けをしようとたくらむ、旅の見世物師もまじっていました。

 

夜。みんなが寝静まったころ、見世物師はチーズでラッキーをおびき寄せ・・・、ラッキーを奪い、逃走!!

 

朝目覚めた音楽師は、ラッキーがいなくなったことを知り、必死にあちこち探しまわりました。

宿屋に、馬屋、村のすみからすみまで。

それでもラッキーは見つかりません。

 

見世物師に似た男が、何やら包みを抱えて出ていくのを見たという話を聞くと、音楽師は、見世物師を追って村を出ました。

 

国中を探しまわりました。

行く先々で、竜の子を見なかったかと聞いてまわりました。

食べるために歌は歌い続けましたが、前のようにうまくは歌えませんでした。

 

あるとき、みじめな様子の緑色の怪物が、鎖で引っ張られて歩いているのを見たと聞きました。

あるときは、竜の子が棒で操られて芸をさせられているのを見たと聞きました。

またあるときは、市場で首に「売り物」と書いた札を下げた、うろこだらけの生き物を見たとも聞きました。

 

音楽師の歌は、どんどん悲しいものになっていきます。

 

長い月日が経ちました。

ある春の日、音楽師は王様の住んでいる町にやってきました。

 

音楽師は、王様に音楽を届けたいといって、宮殿に入れてもらいました。

すると・・・、王様の庭には、一角獣だの、飛竜だの、グリフィンだの珍しい怪獣がたくさん飼われていて、その中に・・・なんと、ラッキーがいたのです!!

 

王様には、病気でどんなに手を尽くしても、目を覚まさない王子がいました。

音楽師は、ラッキーの卵を孵したときの音楽を奏でたら、王子を目覚めさせることができるかもしれないと考えました。

 

音楽師は、やさしくやさしく音楽を奏でました。

一回、二回、三回・・・。

すると・・・王子が目を覚ましたのです!!

 

王様も女王様も、乳母もみんなみんな喜びました!!

王様は音楽師に、褒美に城をやるといいました。

金や馬車を、宝石の付いた金の竪琴をやるといいました。

 

でも、音楽師は断りました。

そして、かわりにラッキーをかえしてほしいと願いました。

ラッキーは音楽師のもとにかえり、ふたりはまたいっしょに、幸せな旅にでました。

音楽師の頭の中には、前よりももっともっとすばらしい歌がいっぱい湧いてきました。

                      

 読んでみて…

愛するものを思う一途な心。それが人を救い、自らも救われ、さらに愛を深めていく。

美しい物語です。

 

作者のローズマリー・サトクリフというと、ケルト神話ギリシャ神話を材とした、骨太の歴史小説のイメージが強くありますが、この絵本は、豊かな歴史的知識を背景にしながらも、やわらかい心のひだや、暖かい心の交流がえがかれた、優しい一冊になっています。

お話が長く、文字数も多いので、読み聞かせには向きませんが、歴史小説などに関心を持ち始める、高学年の子どものひとり読み読書の導入にはぴったりの絵本だと思います。

 

音楽師と竜の子ラッキーとの出会いは、竜のお母さんが、3つの卵を産み落とし、その1つ(ラッキーの卵)を、巣から落としてしまったところから始まります。

人間と竜の出会いという不思議な出来事を、何の違和感もなく受け入れ、物語に引き込んでいく導入は、歴史小説の作家の手腕が感じられます。

 

ルネサンスの画家に影響を受けたとされる、この絵本の画家の絵も、中世風なお話の舞台を見事に描いています。

 

各ページは、それぞれ額縁のように枠がしつらえられ、中世の絵物語を覗いているような雰囲気です。

ページ書き出しのロゴや、テクスト上下に配された装飾も、ルネサンス風な雰囲気を与えています。

全体的に丸味をおびたフォルム。やや陰りのあるやわらかな色彩からも中世の不思議なお話らしさが伝わってきます。

 

旅の途中、水辺の野に寝そべって、くつろく音楽師とラッキーが、見開きいっぱい使って描かれている場面は、本当に中世の夢のように美しく、穏やかでやさしい愛の通ったときがながれている絵になっていて、見ていて心がほうっとなる感じです。

夢のようで、透明感のある絵が、音楽師とラッキーの細やかな愛情のやり取りを繊細に感じさせる美しい絵本です。

 

ラッキーさえいれば、城も馬車も金も、宝石付きの竪琴もいらない。

身を一所に縛る財産や虚飾を拒否し、愛と旅する自由だけを求める音楽師。

愛情深く、潔い生き方に感心させられます。

 

でも、ラッキーへの愛が一途なだけ、それを失ったときの音楽師の悲しみ、切なさ、心細さはひとしおで、町中を必死にラッキーを探しまわる姿や、どの道を進もうか迷いあぐねる姿はとても痛ましく、見ている者の胸を突きます。

 

透明感があって、繊細優美。

音楽師と竜の子という不思議な取り合わせだけれども、一途な愛情の交流が、ひしひしと伝わってくるとても美しい絵本です。

 

今回ご紹介した絵本は『竜の子ラッキーと音楽師』

ローズマリー・サトクリフ文 エマ・チチェスター=クラーク絵 猪熊葉子

1994.11.7 岩波書店  でした。

竜の子ラッキーと音楽師

ローズマリ・サトクリフ/エマ・チチェスター=クラーク/猪熊 葉子 岩波書店 1994年11月07日頃
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高学年の子どもたちには、この絵本をきっかけに、ぜひローズマリー・サトクリフの長編小説にも、チャレンジしてみてもらいたいなと思います。

太陽の戦士

ローズマリ・サトクリフ/猪熊 葉子 岩波書店 2005年06月16日頃
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王のしるし 上

ローズマリ・サトクリフ/猪熊 葉子 岩波書店 2010年01月15日頃
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