ファンタジーの喜び
心の底から想像遊びを楽しむ子どもの幸福感に満ちた絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 20分 ひとり読み向け
あらすじ
ロージーは、玄関の戸に札を掛けました。
《ひみつを おしえてほしい ひとは、この とを 三ど たたくこと》
キャシーがやってきて戸を叩き、秘密が何かを尋ねます。
ロージーは、ミュージカルスターのアリンダになっているのです。
キャシーも、アラビアの踊り子チャチャルーになり、ショーが始ります。
お客も揃ってさあ開演!
というところに・・・、消防夫の帽子を被ったレニーが割り込み、なんだかんだでもうお昼。みんな帰っていきました。
退屈しちゃったロージーは、玄関の戸に札を掛け、赤い毛布を被って裏庭へ。
地下室の戸に座っていると、またみんながやってきました。
「あたし アリンダ。ゆくえふめいなの。」
「だれが きみを みつけるの?」
「まほうつかい。」
みんなで魔法使いを待ちましたが、魔法使いは来ませんでした。
日を改めて翌日。また魔法使いを待ちました。
みんながじっと魔法使いを待っていると・・・、魔法使いがやってきて、行方不明のアリンダを、大きな赤い花火にしてくれました!
「わあ、すてき!パーン!」
「パチ パチ フュー パーン!」
「フュー フュー ドッシャーン!」
みんなもいっしょに花火になります。
花火大会が終わったら、お家へ帰り、猫になって眠ります。
読んでみて・・・
ファンタジーの遊びにあふれた絵本です。
自分ではない何かになりきって遊ぶ。子どもがよくやる、最も原始的な想像遊び。
心の底から、何かになりきって、ファンタジーの世界で遊び、そこに仲間たちをやすやすと引き込んでいきます。
《ひみつを おしえてほしいひとは、この とを 三ど たたくこと》
ロージーが玄関の戸に掛けた札は、魔法の札!
お友達を、ロージーの魔法の世界へといざないます。
ブルーの毛布を、肩抜きぎみに羽織ったロージーは、おすましした流し目で、本当に大人の女優さんのよう。お友達のキャシーも、たちまちアラビアの踊り子に変身です。
ミュージカルを観に来た大勢のお友達も、ワクワクしながら開演を待っています。
ロージーはじめ、子どもたちひとり一人が、とても生き生きしていて、それぞれの個性があって、心から想像の遊びを楽しんでいることが伝わってきます。
途中でじゃまが入ったり、いくら待っても魔法使いが来なかったり、上手くいかないこともありますが、子どもたちのファンタジーの世界は、そんなことでは壊れません。現実に引き戻されそうなことがあっても、ファンタジーは持続しつづけます(日をまたいでも!)。
子どもたちが日常的に、自在にファンタジーの世界と、現実の世界を行き来している姿が、とても楽しく、生き生きと描かれています。
そしてロージーと子どもたちのファンタジーの世界は、魔法使いがやってきて、アリンダことロージーとみんなを花火にしてくれたとき、完全燃焼をむかえます。
「ババン ドドドドド シュル シュル パーン!」
世界一大きな花火!
子どもたちは、花火となって飛び跳ね、走り回り、すっかり満足しきって、スキップしながら家に帰ります。
踊りあがる子どもたちの楽しそうなこと!
それぞれがそれぞれの花火になって、もううっとり‼
心の底から夢中になって遊んでいます。
子どもたちの動きが、それぞれ個性があって、本当に目の前で動き回っているようです。
センダックは、前にご紹介した『あなはほるものおっこちるとこ』(ルース・クラウス文 モーリス・センダック絵 渡辺茂男訳 1979.7.9 岩波書店)でも、心の底から遊びを楽しむ子どもの姿を、とても生き生きと描いていましたが、子どもが伸び伸びと遊びに興じる姿を自在に描きあげるのに、本当に巧みな作家だなと感じ入ります。
白と黒に、朱色とターコイズブルーだけの絵は、すっきりとしてとても洒落ています。
いちばん好きな絵は、魔法使いが来なくて、諦めてみんなが家に帰るところ。
月の輝く夕闇の中、赤い毛布を被ったロージーと子どもたちが、それぞれの家に帰っていくのですが、存分に子どものファンタジーの世界で遊んだあと、懐かしいお母さんやおばあちゃん、ペットの待つ家に帰った子どもたちの安心しきった様子、甘えん坊な小さい子に戻った姿が、うっとりするほど甘美に描かれています。
夢から現実に戻っていく場面ですが、はっきりリアルな現実に戻るのではなく、子どもたちを包む、月明かりに照らされたグラデーションの青い闇は夢幻的で、子どもたちの幻想が現実世界に戻っても、決して途切れることなく続いていくことを表しているようです。
お話の終わり、ロージーがすっかり満足して部屋に帰り、床の上で猫になって眠っているところも素敵です。
お母さんは、床で寝ているロージーから
「あたし、ねむたがってる こねこなの。」
と聞いて、
「ああ、そうだったの。」
「おやすみ!」
とだけいって、足音を立てないように気を付けて、そっと部屋を出ていきます。
お母さんも、猫に変身しているロージーのファンタジーをわかってくれていて、その夢が壊れないよう、そっと見守ってくれているのです。
「ニャオン!」
お母さんに答えた、猫のロージーの声の満足そうなこと!
夢いっぱいの、幸せに満ちた終わり方です。
私的幻想がやすやすと共同幻想になり、幻想と現実が自在に行き来し共存する。子どもの持つ遊びの力と、やさしく見守る大人たちが描かれた絵本。これを読む子どもたちも、きっとロージーと一緒になって、ファンタジーの世界を満喫することだと思います。子どもたちの想像遊びの夢が満たされる、幸福感あふれる絵本です。
ちょっとお話が長いので、教室などでの読み聞かせには、あまり向かないかもしれませんが、絵本からお話の本の読書へ進む子どもたち、本格的な長編ファンタジーの読書へ進む前の子どもたちのひとり読みに、ちょうど良い1冊だとも思います。
なお、この絵本は1964年に初版が、1983年に改訂版が出ていますが、ご覧いただけるならぜひ、改訂版の方をお勧めします。
初版~のものは、テクストがなぜか脚本のト書きのように、人物名付きで書かれていて読みにくく、また表紙の色遣いも、なぜか黄色地にピンクの毛布のロージーになっていて、原書とはかけ離れたものになってしまっています。
青地に赤いロージーの改訂版の方を、ぜひどうぞ!
今回ご紹介した絵本は『ロージーちゃんのひみつ』
モーリス・センダック作・絵 中村妙子訳
1969.9(初版)1983.7(改訂版) 偕成社 でした。
ロージーちゃんのひみつ改訂版 | ||||
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