絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『りすのパナシ』

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自然への愛と敬意

 大自然の動物たちの生態を、愛ある物語にしたてた絵本です。 

りすのパナシ

リダ・フォシェ/フェオードル・ロジャンコフスキー 童話館出版 2003年04月
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by ヨメレバ

 読み聞かせ目安  高学年  ひとり読み向け

あらすじ

ある森で、りすのキックとルケット夫妻が楽しく遊んで暮らしていました。

夫妻は森で一番りっぱな巣を作り、子どもを4匹産みました。

パナシに、フォレ、ルタンにフラムです。

子りすたちは、お乳を飲んですくすく育ち、お母さんから、しっぽをふわっとふくらますこと、モミの実を大事に食べることなどを学びます。

 

森には、何千匹もの虫たちや、小鳥、蝶、大きなふくろう、野うさぎ、たくさんのコケやキノコ、いろんな花々がありました。

森ではみんな親切で、みんなお友達・・・、と思っていると・・・。

ある日、お父さんのキックが、黒い獣に襲われてしまいました!!

獣は「てん」!

お父さんは逃げに逃げて、命からがらみんなのもとへ帰ってきました。

 

好奇心旺盛でやんちゃなパナシは、いつもしっぽは松脂でべとべと。どこにでも、何にでも鼻を突っ込み、もりもり食べて、遊びます。

そんなパナシが、ある日、森番の鉄砲に撃たれてしまいました!!

足を怪我したパナシは、森番の家で、檻に入れられることに!

息子のジャンは、パナシをかわいがり、大事に介抱してくれました。

パナシは、ジャンを好きになりかけましたが、やっぱり森が忘れられませんでした。

 

そのころ森では、お父さんやお母さん、兄弟たちが、パナシがいなくなったことで、悲しみにくれていました。

でも、お父さんは、残った一家が、森番に狙われないよう、引っ越す決意をします。

そして、森を歩き回り、お父さんが以前住んでいた、大きなカシの木の穴を、新しい巣に決めました。

 

パナシは、寂しく檻のなか。森を思って暮らしてると・・・、ある時、ジャンが檻の戸を閉め忘れていることに気づきます!

「ぴょん!」

パナシは檻を出て、走りに走って、「なつかしのわが家」に帰りました。

でも・・・、そこにはもう、誰もいませんでした。

 

でもでも、次の日です!キック一家がイチゴ摘みをしていると・・・。

「まあ、うちのパナシじゃないの!」

お母さんが気づきました!そこにパナシが立っていることに!!

みんな大喜び!!

 

一家は冬の貯えをして、またやって来る輝く春の太陽や、美しい花々を夢見ながら、眠りにつきました。

 

 

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読んでみて・・・

 自然への、敬意と愛にあふれた絵本です。

 

 森の様子、動物たちの生態は、科学絵本といってしまってもいいくらいの正確さ!

 

りすが、いつもしっぽをふわっとさせておく理由は、高いところから、ふわっと、かつ素早く、怪我なく飛び降りるため。

敵に襲われたときは、よく茂った枝のある木の幹に、体をぺったりくっつけること。

森は豊かで美しく優しいけれど、どんな動物にも「天敵」がいること。

動物は、住処に危険を感じたら、住み替えをすること。

川の流れは、速く、危険なこと。

泳ぎをわきまえたお父さんりすは、その川の流れにも、流されず泳ぐ術を持っていること。

寒い冬に備えて、りすは、茂みのしたに餌を蓄えること。

北風が吹きはじめると、泉の水は、氷のように冷たくなること。

りすは冬、冬眠をすること。

 

などなど、実に正確に、客観的に、森と動物の生態を、絵とテクストでわかりやすく教えてくれます。

自然の豊かさ、美しさ、きびしさ。その中で、りすたちが、自然の恵みを享受しながら、どう知恵を働かせ生きているか。

それを、単に事実の列挙にすまさず、キック一家の愛情あふれるお話にしたてて、語っているのです。

 

お母さんは、子どもを安全に産み、育てるために、巣作りに妥協しません。

子どもが、りすとして立派に生きるために、しっぽの整え方や、木の実の食べ方を丁寧に、愛情を持って教えます。

 

大自然のおくりものは、たいせつにするのですよ!」

 

自然のなかで、生き生かされている自分たちのありようを、十分に理解し、子どもに教えています。

そして、パナシとの再会の場面では、さすがお母さん!!

誰よりもはやく、パナシのにおいと気配に気づき、

 

「まあ、うちのパナシじゃないの!」

 

暖かい母の愛で、息子を迎えます。

 

一方、お父さんは、たくましく頼れるお父さん。

天敵「てん」に襲われても、負けません。

お父さんの命がけで逃げる姿をみて、子どもたちは、天敵から逃れるすべを学びます。

いつもしっぽを汚しているやんちゃなパナシは、お父さんを見て、やっとしっぽの大切さを思い知ります。

家族を守り、危険を回避するための引っ越し。速い川の流れでの泳ぎ方。

お父さんは、いつもたくましく身を挺して、生き抜くすべを子どもたちに教えているのです。

 

そんなお父さんお母さんを見て、愛を感じながら育った子どもたちは、親と同じように飛んだり、餌を取ったり食べたり、泳いだりできたとき、達成感を味わい、とても喜び、自分たちを誇りに思います。

 

りすたちをとおして、親のあるべき姿や、子の理想的な育ちを、あらためて見せてもらっている感じです。

 

そう。りすをとおして。

この絵本は、りすの目線で描いてあって、りすが主役で、人語も操りますが、決してファンタジーではないのです。動物を擬人化して描くのではなく、あくまでも写実的に、りすはりすらしく、自然の動物を、できるだけそのまま描いている。それでいて、人の心に暖かく響く。

なかなかできそうでできない、優れた表現だと思います。

 

絵も、とても丁寧でやわらかく、暖かく、そしてやっぱり写実的に描かれています。

色とりどりの鮮やかなカラーページは、目を見張るような美しさ。

色鉛筆かクレヨンを重ねたような、柔らかなタッチで描かれています。

春の輝くお日様に照らされた森。

木々や、昆虫、鳥、さまざまな植物や動物たち。

どれも、かわいらしく生き生きと描かれています。

秋の、色づきゆく森もすてき。

そして、最後の雪に覆われた冬景色。

真っ白な雪の下で、また来る春を待つ、動植物の息吹が聞こえるようです。

カラーページに、時折挟まれるモノクロページも、効果的に、お話にリズムと落ち着きを与えています。

 

大自然のなかで生きる、動物たちの生態を、写実的に、かつ愛情豊かでドラマチックに、しかも、柔らかくかわいらしく美しく描いたこの絵本。野生の持つ、しなやかな生命の輝きを、美しい詩情とともに見せてくれる、素晴らしい絵本だと思います。

 

かなり長い絵本なので、残念ながら、普段の学校での読み聞かせにはあまり向きませんが、ゆっくり時間をとれるときに読んであげたり、子どもがじっくりひとり読みするのには、とてもいいおすすめの1冊です。

 

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今回ご紹介した絵本は『りすのパナシ』

リダ・フォシェ文 フェードル・ロジャンコフスキー絵 石井桃子

2003.4.20  童話館出版  でした。

 

 

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