子どもの心とおもちゃ
忘れられたおもちゃの兵隊が必死になって追いかけるお話。
読み聞かせ目安 低・中学年 3分
あらすじ
ある日、メリーはおばさんから、遊びにおいでと手紙をもらいました。
さっそくメリーは、出かける仕度!
お父さんからもらった旅行鞄に、たくさんの宝物を詰め込みます。
うまのアップル、毛皮付きの手袋、お人形のスーザン、トランペット。
真っ赤な靴に、ティ―ポット、ヘア・ブラシ・・・。
それから、兵隊さんのお人形おりこうなビル・デイビスとお財布も!!
たくさんの宝物を、鞄に詰め込むのはたいへんです。
メリーは、あれこれ考えて、詰め方を試します。
何度も詰め替えているうちに、あっという間に出発の時間になりました。
大急ぎで荷造りを終え、いざ出発!
でも・・・
「なんと!!」
「よりによって!!」
メリーは、ビル・デイビスを忘れてしまったのです!
ビルは、メリーを追って走りました。
走りに走って、野超え山超え、谷超えて、力のかぎり走って・・・。
メリーが、ドーバーの駅に着いたとき、ビルも駅に着きました!
「おりこうなビル」
読んでみて・・・
おばさんちのお泊りに、心浮きたつ子どものメリーと、大好きなおもちゃたちの心の交流を描いた絵本です。
ドーバーにいるおばさんの家に、お泊りすることになったメリー。
いつも、肌身離さず、いっしょにいたいおもちゃや身の回りの品々を、ウキウキしながら鞄に詰め込みます。
メリーは、何を持っていこうかと、考えながら荷造りをしますが、メリーがあれこれとお宝の名をあげるたび、それらの品々が、画面いっぱいの絵で紹介されていきます。
うまのアップルに、お人形のスーザン、トランペットに、ヘア・ブラシ。
そしておりこうなビル!
みんな、メリーに取り上げられたこと、愛されていることがとても誇らしいようで、その登場場面は、どれも嬉しそうに輝いています。
白地に黒のベース、赤黄青の色を鮮やかにのせた石版刷りに、ラフなペン描きで線を補っているような感じの絵。
鮮やかななかにも落ち着きのある原色の重なりが、お宝たちの誇らしさ、愛されている喜びをキラキラと見せてくれます。
最後の最後に、お財布といっしょに紹介された、お財布と同等に大事な大事なビル・デイビスは、紹介されると、「待ってました!」とばかりに、黄色に輝くシンバルを鳴らし、喜びを表してています。
でも・・・、たくさんのお宝のパッキングはなかなか難しく、鞄に上手く収まりません。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた鞄の中身は、メリーご自慢のお宝が、奇妙キテレツなポーズになって、押し込まれていきます!
おりこうなビルとトランペットを、きちんとまっすく入れれば、お人形のスーザンの体はくの字になり、スーザンをまっすぐに入れれば、おりこうなビルはV字開脚!!
それぞれのお宝が、珍妙な姿で鞄に押し込められ、もうぱんぱん!!
そして、やっとのことで荷造りが出来たかと思ったら、なんと大事な大事なビルを入れ忘れてる!!
いかにも、慌てた子どもが、うっかりやりそうなことですね。
自分が置いてけぼりにされたことを知ったビルは、がっくり・・・。首をうなだれて、床に水たまりができるほど、涙をドバドバ流して大泣きです。
でも、気を取り直したビルは、メリーを追いかけて走ります。
階段を駆け下り、犬に吠えられながらも汽車を追い、野超え山超え・・・。
そのときのビルは、なんと、いつのまにかお人形ではなくて、本当の兵隊さんのように、大きな人間のサイズになって走っています!
きっと、メリーに追いつきたい気持ちが、大きく大きくなって、人形の枠を超えてしまっていたのでしょうね。
そして、やっとのこと、ドーバーの駅で、愛しのメリーに追いつけたとき、ビルはもとの人形のサイズにもどり、メリーに敬礼!
メリーも嬉しそう!!
汽車の窓から手を伸ばし、ビルを迎え、
「おりこうなビル」
と賛辞を呈し、花束贈呈。
メリーの帽子と花束、ビルが手にするシンバルの、それぞれの黄色が、2人の嬉しさ、明るく輝く喜びの気持ちを表しているようです。
テクストは、決して上手いとはいえない、手描きの文字で書かれています。絵も、一見雑駁な感じのする絵。ですが、雑さ、へたうまな感じがかえって、浮足立ってお泊りの仕度するメリーの気持ち、メリーを必死に追いかけるビルの気持ちのドタバタさを、上手く表現していると思います。また、このあえての粗雑さが、子どもの心の未整理な様子を、見事に表現しているようにも思えます。
忘れられたおもちゃが、必死に走って追いかけてくる。
これは、単におもちゃのビルが、「忘れないで~。連れてって~!」とメリーを追いかけているのではなく、きっとメリーのビルへの思い、大事なビルを忘れてきてしまった残念な気持ち、後ろ髪ひかれながら旅路をゆくメリーの気持ちが、おもちゃに人格を与え、人間サイズにして、行動させたのだと思います。
子どもにありがちな、うっかりな出来事。そのうっかりな出来事のなかに、子どもの大事な物に対する愛着や、切なる思いをみることができる絵本です。
ごく短く、あっさりと読んでしまえる絵本のなので、軽く見過ごされがちかもしれませんが、子どもの心の奥を描いた優れた絵本だと思います。
短いので、読み聞かせをするとき、他の本との組み合わせにも、使い勝手がよい絵本です。
今回ご紹介した絵本は『おりこうなビル』
ウィリアム・ニコルソン文・絵 つばきはらななこ訳
2011.12.20 童話館出版 でした。
おりこうなビル | ||||
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