絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『鬼のうで』

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講談調に読んでみたい

 有名な鬼退治のお話を、伝統と洗練を感じさせる絵で描いた絵本です。

            

読み聞かせ目安  高学年  10分

 あらすじ

 むかしむかし、源頼光とその家来たちが鬼退治をした。

ところが、1匹だけ逃げ隠れた鬼がいて、都のはずれの羅生門に住みついた。

鬼は、100人もの女をさらっていった。

 

そこで、頼光の家来のなかで1番強い渡辺綱が、鬼退治に乗りこんだ。

綱は、羅生門で鬼と対峙し、いまにもぐしゃりと潰されそうになったが・・・、力のかぎり鬼の腕を切っぱらった!

 

綱は鬼の腕を、担いで帰る。

ところが・・・、真っ黒い雲が現れて・・・、鬼の腕は消えてしまった!!

 

その後、主の頼光は、腕を切られた鬼のたたりで、病気になってしまう。

綱は、今度こそと、また鬼退治。

 

女に化けた鬼と綱は、大乱闘!!

綱はまた、鬼の腕を切り落としたが、綱も鬼に弾き飛ばされてしまった!

そこへ、綱を案じた案じたつわものどもが駆けつけて、綱と腕を担いで帰った。

 

頼光の病は、けろりと治った。

占い師は、赤い箱に鬼の腕を入れ、鬼をけっして近づけずに、7日のあいだ経を読めという。

 

そこへ今度は、老婆に化けた鬼がやってくる。老婆はなんと、頼光の母の姿!!

母にこわれて頼光は、とうとう鬼の腕を見せてしまった!

 「げ!」

 老婆の口は、真っ赤にさけ、大鬼となり、腕をつかんで火をふいた!!

頼光は、「や!」と、鬼の首を切り、綱も加勢する。

 「うおーん うおーん うおーん。」

 鬼の首は、大江山さして飛んで行った。

都はまた、ものととおり静かになった。

                      

 読んでみて・・・

平安中期、源頼光とその四天王が、鬼退治をしたという逸話をもとに作られらお話です。

頼光をねらう大童鬼同丸を討つ話(『古今著聞集』巻九)や、渡辺綱が一条戻橋で女に化けた鬼と格闘する話(屋代本『平家物語』剣の巻)、綱が羅生門の鬼退治をする話(謡曲羅生門』『茨木』)などなど、頼光・綱らの、鬼退治の話は、古くから少しずつ形を変えたり合わせたりしながら、さまざまに語り継がれてきました。「羅生門の鬼退治・渡辺綱」といえば、どこかで知っている、聞いたことがあるという人も多いかと思います。

この絵本は、そんなよく知られた鬼退治の話を、日本画の伝統を受け継ぎながらも、洗練された現代的な構図で描いたもの。

 

表紙を開くと、薄黄の和紙の上に羅生門。小さく緑の月が浮かんでいます。

ページをめくると、

 

「そうれ それそれ そのむかし。京の都に ほどちかい、丹波のくにの 大江山に、 酒吞童子という まっかな毛の みあぐるような いかつい鬼めが すんでおった。手下の鬼ども うんとこしたがえ 人を くったり さらったり、わるさのかぎりを しくさった。」

 

勢いよく、平安時代の物語がはじまります。

見開きには、大きくて真っ赤な酒吞童子が、つわものどもに取り押さえられてのびています。

次のページは、見開きいっぱいに横長く広がった扇型の絵。

山を描いた、和彩の美しい緑の上を、横長にびゅーんと戯画的に逃げていく鬼の姿。

伝統的な日本画と、現代的なマンガチックな感覚が、見事に融合されて描かれています。

他にも、見開きを和紙で四分割して、馬に乗って羅生門にやってくる綱が、小さな遠景から順に大きな近景に。羅生門に到着して、鬼に遭遇するまでを、マンガのコマ割りのように描いていたり。

登場したおおきな鬼は、真っ赤な口を「ぐわーん」と開き、野太い腕で、綱を握り締めます。墨で描かれた毛むくじゃらの太い腕は、『鬼のうで』という題名とともに、強さと怖さ不気味さで、とても印象に残っていきます。

 

柔らかで落ち着いた和紙の色合いと、すっきりとした白の余白。力強い墨の色。所々、要所要所に施される、赤や青の渋みのある和彩。全体的に落ち着いた、和の雰囲気を漂わせながらも、絵や和紙、余白の配置・構図の取り方で、お話の緩急が伝ってきます。

大鬼のまとう衣の文様も、典雅で美麗です。

 

終わりの、頼光に切られた鬼の首が、大江山さして飛んでいく場面は、まるで絵巻のよう!!

見開きいっぱいに、京の都が俯瞰で描かれ、青い山に金泥で染められた雲がたなびくなかを、おおきな鬼の首が飛んでいきます。

以前ご紹介した同じく赤羽末吉の『だいくとおにろく』も、絵巻のような美しさでしたが、『おにろく』の素朴な美しさに対して、この『鬼のうで』の方は、熟練した洗練の境地を感じさせます。

 

masapn.hatenablog.com

 語り口も一貫して、冒頭の「そうれ それそれ」の勢いあるテンポを貫き、場面の展開ごとに

「さあて、それから 三月ほど たってのことでござる。」

を繰り返したり、

 「はあて なぜ あらわれん。綱は、ひと晩 かんがえてござる。」

「はあて どうしよう。鬼は、ひと晩 かんがえてござる。」

 と、熟考する綱と鬼のセリフを対句的に表現したり・・・。

まるで講談師が、講談を語るようなテンポと口調で、歯切れよくリズムよく進んで行きます。読み聞かせをするときは、このテンポやお話の雰囲気を壊さぬよう、小気味よく読んでみたいといつも思います。

 

でも、必ずしもきっちと七五調というわけではなかったりするので、実はこの絵本、ちょっと読むのは難しかったりもします。テンポを壊さず、緩急を付け、一気呵成に読みたいので、なかなか体力も使います。喘息持ちの私は、呼気が弱いので、体調のよいときしか読めません・・・。

何度も声に出して、繰り返しよくよく練習してからでないと、上手に読めないので、読み聞かせ用としては、ちょっと上級者向きの絵本です。

 

ただ、上手に読めると気持ちいい!

子どもたちも、ぐいぐい引き込まれていくようです。

でも、やっぱり言葉が、古典的な言い回しになっているので、まだ小さい子には難しいでしょう。以前、高校教師をしていたとき、高校2年生に読んだことがあるのですが、

「これ、小学生が読むの難しくね?」って言っていました。

高学年の子に、ガッツリ聞かせる読み聞かせ向きの絵本です。

 

ガッツリした鬼の腕をもぎ取るように、読み手も聞き手もガッツリ向き合う1冊。しっかりした手ごたえのある1冊です。

 読みごたえ、聞きごたえ、そして見ごたえのある、充実した力のある絵本。お話と絵ともに、伝統を受け継ぎながらも、現代的に洗練された意匠をもつ、とても素晴らしい絵本。大事に読み伝えていきたい絵本だと思いました。

                      

今回ご紹介した絵本は『鬼のうで』

赤羽末吉文・絵

1976.12.1  偕成社  でした。

鬼のうで

赤羽 末吉 偕成社 1976年12月
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