絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『野うさぎのフルー』

野うさぎの生態

 野うさぎフルーの成長を、美しい絵と詩情豊かな物語で描いた絵本。

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 読み聞かせ目安  高学年  ひとり読み向け

あらすじ

野うさぎのフルーは、ひとりぼっち。

お父さんはキツネに食べられ、妹はフクロウにさらわれ、お母さんはどこかへいってしまいました。

 

でもフルーは、神様から3つの贈り物をもらっていたので、ひとりでも大丈夫!

神様からの贈り物は、「かくれみの」と「魔法の耳」、そして「七里ぐつ」です。

野うさぎの「かくれみの」は、土と同じ色をした毛皮。

「魔法の耳」は、何キロも遠く離れたところの音でも、聞きつけ聞き分ける大きな耳。

「七里ぐつ」は、世界中でいちばん速く、丈夫な足です。

 

3つの贈り物を駆使して、フルーは、ひとり暮らしを楽しみます。

森や林、畑の中を駆け回り、いろんな動物と出会い、跳ねまわって遊びます。

野菜畑でごちそうを食べ、畑から畑へと、住処をかえて・・・。

 

自然のなかで暮らしているうちに、フルーの耳は、いろんな音を聞き分けられるようになりました。

かっこうの鳴き声、マルハナバチの羽音、蛙や雄鶏の鳴き声は、みな安心できる音。

カラスや犬の鳴き声、リスのキイキイ叫ぶ声、そして鉄砲の「ドン!」は、危険な音。

風が運んでくる、いろんな臭いも嗅ぎ分けられるようになりました。

 

そんなある日、フルーの巣に、若いきれいな娘うさぎが、跳び込んできました。

キャプシーヌというその娘は、大ガラスに追われて、逃げ込んできたのです。

 

その日から、フルーとキャプシーヌは、いっしょに暮らすようになりました。

畑を駆け抜け、花キャベツをしゃぶり、月夜の晩には、草原で踊り・・・。

自然の豊かな恵みを受けながら、明るく楽しい時が流れます。

 

でも、ある秋の朝のこと。

突然銃声が「ドン!」と響き、猟犬がけたたましく鳴き、人間の男たちの叫び声が、聞こえてきました。

 

フルーとキャプシーヌは、必死で逃げました。

犬が、荒い息で追いかけてきます。

鉄砲の音や、男たちの叫び声が響きます。

 

フルーは、なんとか逃げきりましたが、キャプシーヌと生き別れてしまいました。

 

寒い冬。

何もかもが、白い綿に包まれた森のなか、フルーはひとりで過ごしました。

カラマツやアカシヤの皮をかじり、畑に残った赤キャベツを食べながら・・・。

 

そしてとうとう雪が消え・・・、春!

日は輝き、畑には麦が伸びはじめ、草は緑に、花も開き、ミツバチも巣から出てきました‼

フルーの心も、春の喜びでいっぱい!

あまりの嬉しさに、飛び跳ねていると・・・、美しい雌うさぎがやってきました。

キャプシーヌです‼

 

2匹は、再会を喜び、そして・・・、リンゴの花が咲いた日に、2匹は結婚したのです。

草の葉は、日の光に輝き、花々は甘く香り、小鳥たちは2匹の結婚を祝って、声をそろえてさえずりました。

 

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読んでみて・・・

以前ご紹介した『リスのパナシ』(リダ・フォシェ文 フェードル・ロジャンコフスキー絵 石井桃子訳 2003.4.20 童話館出版) と同じシリーズものの1冊です。

 

masapn.hatenablog.com

 『りすのパナシ』同様、生き物の生態を忠実に描きながら、同時に物語性も豊かに描いた、とても優れた絵本です。

 

まずはじめに、野うさぎフルーの紹介。

フルーが、ひとりぼっちなこと。お父さんは、キツネに食べられてしまい、妹はフクロウにさらわれ、お母さんは、生きてはいるものの、フルーを産んで1週間は、お乳を飲ませてくれましたが、そのあとはどこかへいってしまったこと。たまに戻ってくることはあっても、すぐまたどこかへ行ってしまうことなどが、淡々と語られていきます。

 

天涯孤独なフルー。人間にしてみると、とんでもない境遇ですが、野うさぎにとっては、ごく普通のこと。お母さんも、自分勝手で無慈悲な母親なのではなく、野うさぎのあり方としては、これが当たり前であることが示されます。

 

たったひとりでも、生き抜いていくために、フルーに生まれつき備わった能力があること。どこにでも身を隠せる、土と同じ色をした毛皮。よく利く耳。丈夫で速い足。

うさぎの、野性で生き抜く生物としての特徴が、「かみさまからの三つのおくりもの」として、はっきりと示され、野うさぎフルーの置かれた境遇が、子どもたちに納得いくように、とてもわかりやすく描かれているのです。

 

ひとりぼっちのフルーを、変に甘ったるくセンチメンタルに描くのではなく、野性のうさぎのあり方として淡々と示す。子どもに媚びたところがない、すっきりとしたテクストです。

 

淡々と、その生態を描くだけだと、さっぱりしすぎて図鑑みたいかと、思われるかもしれませんが、この絵本の優れたところは、絵で、とても子どもたちの興味を惹くように、描かれているところ。

「二つの魔法の耳」を、描いたページは、ピンと伸びたフルーの長い耳から、四方八方に黄色い線が引かれ、その先には、マルハナバチのブンブンや、カモのガァガァ。教会のゴーンゴーンや汽車のシュシュシュシュ。いろいろなものの音が、絵と擬音で描かれていて、とても楽しいページになっています。

 

他にも、野うさぎの畑のごはんが、まるでレストランのフルコースメニューのように、描かれていたり、フルーが駆け回る畑や林の道が、地図上に赤い線で描かれ、そこがフルーの臭いの沁みついた縄張りであることなども、面白く興味を惹くように描かれています。

犬に追いかけられた時の、フルーと犬それぞれの通り道も、色分けして地図上に描かれているので、たどっていくのも楽しいものです。

 

また、ロジャンコフスキー絵は、楽しくわかりやすいだけではなく、柔らかで色鮮やか!自然の草木、川や沼の水が、日光に照らされ、輝いているのが見てとれるよう!

うさぎや野ネズミ、カエル、鳥、ハチに蛇・・・。自然のさまざまな生きものは、写実的に自然に忠実に描かれていますが、どれも愛らしく、優美です。

ひまわりの咲く、朝焼けの畑。雪が消え、春の輝きに満ちた丘から望む畑の輝きも、うっとりするような美しさ。一幅の絵のようです。

 

お話も、野うさぎの生態、自然のなかでの成長を忠実に語りながら、フルーがいろんな経験を積んで、その都度、いろんなことを学んでいくこと。楽しい思いや、怖い思い、ドキドキするような気持、いろんな感情を経験しながら、友情や愛情を育てていくさまを、詩情あふれる美しい物語に仕立てて語っていきます。

 

自然の厳しさ、美しさ。そのなかで、知恵と勇気と愛をもって生きる喜び。

生命力のきらめきが、躍動感あふれる絵、簡潔でありながら詩情豊かな文で描かれた、すばらしい絵本だと思います。

子どもたちもぜひ、こういう絵本を読んで、自然に対する観察力や深い眼差し、愛、そして生き抜く力を、豊かに育んでいってもらいたいなあと思いました。

 

今回ご紹介した絵本は『野うさぎのフルー』

リダ・フォシェ文 フェードル・ロジャンコフスキー絵 石井桃子訳編

2002.12.10  童話館出版  でした。

 

野うさぎのフルー

リダ・フォシェ/フェードル・ロジャンコフスキー 童話館出版 2019年12月
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