犬と女の子たちの友情
パリの美しい街並みと女の子たちの愉快な暮らしが描かれた絵本
読み聞かせ目安 中学年 8分
あらすじ
パリのツタの絡んだ古い屋敷に、12人の女の子が、シスターのミス・クラベルと一緒に暮らしていました。
一番おちびさんがマドレーヌ。
おちびさんでも、スキーやスケートが得意で、ネズミもトラもへっちゃらです。
12人は、毎日降っても照っても9時半に、2列になってお散歩します。
そんなある日のお散歩中、マドレーヌが滑って川に落ちてしまいました!!
そこへ一匹の犬が現れ、飛び込んでマドレーヌを助けてくれました!
みんなは、その犬を連れて帰り、ジュヌビエーブと名前をつけて、一緒に暮らすことにしました。
ジュヌビエーブとみんなは楽しく暮らしていましたが、5月1日の学校検査の日のこと。評議員がぞろぞろやってきて、とうとうジュヌビエーブは見つかってしまいます。
学校では犬を飼ってはいけない決まりがあったのです!
ジュヌビエーブは追い出されてしまいました!!
みんなはミス・クラベルとともに、ジュヌビエーブを探しに出かけます。
心当たりを探したり、名前を呼んだりして、街中を探しましたが、ジュヌビエーブは見つかりません・・・。
みんながっかりして帰りました。
ところがその晩。ミス・クラベル、
「ようすが どうも へんですね」
外で、ジュヌビエーブが吠えているではありませんか!!
みんな大喜びでジュヌビエーブを迎えました。
今度は、誰がジュヌビエーブと一緒に寝るかで大騒ぎです。
やっとのことでみんな寝静まったかと思うと・・・。
またまたミス・クラベルはびっくり仰天!
ちょうどみんなの数だけ、ジュヌビエーブに子犬が産まれていたのです!!
読んでみて…
前回ご紹介した『げんきなマドレーヌ』の第二弾です。
一番おちびさんでお転婆のマドレーヌ。今度は、お散歩中に川に落ちてしまい、またまた大騒ぎです!
そんなマドレーヌを救ってくれた犬との楽しいお話が、今回の『マドレーヌといぬ』。
天真爛漫な女の子たちとミス・クラベルは、楽しくジュヌビエーブと暮らしていましたが、学校検査の日に評議員に見つかってしまい、ジュヌビエーブは追い出されてしまいます。
みんなで必死に街中を探して回りますが、今回の『マドレーヌといぬ』は、まるでパリのガイドブックのよう!
ジュヌビエーブを探して回るみんなの背景が、パリの美しい街並み、名所の数々になっているのです。
サクレ・クール寺院の見えるモンマルトルの通り。
アーケードの美しい市場。
ドゥ・マゴカフェがあるサン・ジェルマン・デ・プレ界隈。
ショパンやビゼーといった芸術家たちの眠るペール・ラシェーズの墓地。
女の子たちとミス・クラベルが、あっちこっち見回しながら、必死にジュヌビエーブを探す様子が、美しいパリの街並みと、名所の数々とともに描かれています。
表紙も、フランス学士院に向かって芸術橋を渡る女の子たちとミス・クラベルですし、表紙見返しは、大きく画面いっぱいにセーヌ川とシテ島。
アンリ4世騎馬像や、ノートルダム大聖堂、マリーアントワネットの牢であったコンシェルジュリーなどが描き込まれています。
色遣いも『げんきなマドレーヌ』に引き続き、明るい黄色地と白黒のページを中心に、時折挟まれるカラーページがひときわ美しく、パリの街並を色鮮やかに見せてくれます。
鮮やかながらも落ち着いた色合いは、シックなパリの街にぴったりです。
ジュヌビエーブがいなくなった夜、マドレーヌが
「ジュヌビエーブ、どこに いったの?きっと きっと、かえってきてね」
と、窓から夜の街を眺めているところや、サクレ・クールの見えるモンマルトル通りの絵は、パリの街を描いたフランスの画家ユトリロ(1883~1955)の絵画をも思わせます。
絵本全体に渡るユーモアも、前作に引き続き健在です!
チュイルリー公園で、ジュヌビエーブを探している場面では、見開きいっぱいに公園が広がり、ミス・クラベルと女の子たちが、てんでに散らばってジュヌビエーブを探しています。
広い公園の中には、お年寄りから赤ちゃんまでたくさんの人がいて、遊んだり散歩したり、くつろいだり、それぞれ思い思いに過ごしていますが、たくさんいる人と同じか、それ以上にたくさんの犬が描き込まれています!
それも、プードルやダルメシアン、ブルドッグにダックスフント。ありとあらゆる犬が何匹も!!
これだけたくさんの犬がいるのに、テクストは、
「ジュヌビエーブの かげも かたちも ありませんでした。」
と茶目っ気たっぷりです。
そしてやっぱり、遊び心あふれる表現は、ミス・クラベル!
黒衣に身を包んだミス・クラベルは、いかにも真面目そうな先生で、「なにごとにも おどろかない ひと」と称されていますが、マドレーヌが川に落ちたときは、ひえーっ!とばかり、両手を挙げて、高い背丈を長々と伸ばしています。
夜中に何やら異変を嗅ぎつけて「すわ いちだいじと、はしりに はしって」女の子たちの部屋に駆けつける場面は、『げんきなマドレーヌ』と同様、これまた高い背丈を長々と、ドアからドアまで届くほど、斜めに長ーく伸ばして、ユニーク極まりない姿を見せています!
でも、このミス・クラベルのユニークな姿は、彼女のマドレーヌを、女の子たちを思う心の表出!
ミス・クラベルが、いかにいつも女の子たちを心配し、気を配り、愛情を注いでいるかが伝わってきます。
このミス・クラベルの愛に包まれて、女の子たちも、伸び伸びと楽しく暮らしていることがわかります。
瀬田貞二による、ちょっと古風でテンポのよい翻訳も健在です!
「もくずになる」「うせろ!ごろつき」「すわ いちだしじ」
など、今の子どもには、もはや聞きなれない言葉ですが、表現豊かな絵と、テンポのよい語り口がそれを補い、なんとなく雰囲気的にわかってくるようです。
今の子どもたちも、現代ではあまり使われなくなってしまった言い回しや、日本語の持つリズムや語感の美しさを、こういった絵本を通して身に付けていってほしいなと思います。
女の子たちとミス・クラベル、ジュヌビエーブの愛情いっぱいの楽しい暮らし、パリの美しい街並みを、余すことなく生き生きと描いた絵本です。
お話、女の子たちやミス・クラベルの表情、パリの街の様子、どれをとっても見飽きることない、何度でもいろいろな角度から楽しめるすてきな絵本だと思いました。
今回ご紹介した絵本は『マドレーヌといぬ』
1973.5.10 福音館書店 でした。
マドレーヌといぬ | ||||
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