底抜けに楽しいサーカスの旅
マドレーヌがジプシーサーカス一団と旅に出てしまうお話です。
読み聞かせ目安 中学年 8分
あらすじ
パリの寄宿学校で暮らすマドレーヌ。毎日規則正しい生活を送っています。
そんなある日、隣のスペイン大使の息子のペピートが、ジプシーサーカスに招待してくれました。
12人の女の子とペピートたちはおおはしゃぎ。
みんなで観覧車に乗って楽しんでいると・・・、
ぴかり!ごろごろ!
激しいにわか雨が降ってきました!!
観覧車は止まり、みんなはタクシーに乗り、急ぎ屋敷に帰りました。
帰ってみると・・・、たいへん!!
マドレーヌとペピートがいません!!
ふたりはまだ、観覧車に乗ったままだったのです!
マドレーヌとペピートは、ジプシーに助けられ、そのままジプシーサーカスといっしょに旅にでました。
ジプシーの暮らしは自由で楽しいものでした。
学校もなく、歯磨きも、おやすみの挨拶もない暮らし。
マドレーヌとペピートは、サーカスの芸当を教わって、サーカス団の一員となりました。
そのころ屋敷では、みんなが心配していました。
いつも何事にも動じない先生のミス・クラベルも、このときばかりは心配のあまり、すっかりやつれてしまいました。
マドレーヌから、サーカスで暮らしている知らせを受けると、急ぎみんなで迎えにいきました。
ジプシー母さんは、マドレーヌとペピートかわいさのあまり、返したくなくて、ふたりをライオンのぬいぐるみに入れてしまいます。
ライオンごっこは楽しいものでしたが、ミス・クラベルと女の子たちが迎えにきたので、飛行機と船と汽車に乗って、パリの屋敷に帰りました。
そして、2列になってパンを食べ、2列になって歯を磨き、2列になって休みました。
洗濯のきいたシャツや、汚れを落とした体は気持ちのよいものでした。
読んでみて…
『げんきなマドレーヌ』のマドレーヌが、今回はサーカスの一員となって旅してしまうお話です。
底抜けに明るくてかわいいマドレーヌ。このお話でも、かわいさ楽しさは満点です!
楽しく観覧車で遊んでいるところを、うっかり取り残され、ジプシーサーカスと旅するはめになったマドレーヌ。
とんでもないアクシデントですが、ものともせず、存分に楽しみます。
普段はミス・クラベルのもと、きっちり2列で歯磨き、食事、お勉強、お散歩。
規則正しい良家の子女の暮らしをしていますが、ジプシーの暮らしは自由です。
定住しないジプシーサーカスは、街から街へと旅をします。
歯磨きも、ご挨拶もない暮らしを満喫しながら過ごします。
マドレーヌとスペイン大使の息子ペピートが、サーカスの暮らしの自由と非日常を謳歌するようすは、うっとりするような色遣いの絵で表現されています。
薄紫の満月の夜。モンサンミッシェルを背後に、サーカスの車を止めて焚火をする一行。火には、何やらお鍋がかかり、香しい煙を立てています。ピエロはギターで弾き語り。なんだかロマンティックな夢のような景色です。
フランスの地中海域と大西洋岸を結ぶ城塞都市カルカソンヌの庭では、マドレーヌとペピートが、とても楽しそうにサーカスの芸の練習をしています。ニワトリや渡り鳥、コウノトリもにぎやかに、ふたりを応援しているよう。ピンクの城壁が、明るいほがらかさを表しています。
ライオンのぬいぐるみに入ったふたりが、ノルマンディー地方の農家に出没するさまも陽気で愉快で、遊び心満点です。
人も家畜も、猟師でさえも、本物のライオンと見間違え大仰天!!
マドレーヌとペピートの、底抜けに明るく楽しいジプシーサーカスでの非日常が、鮮やかで豊かな色彩で描き出されています。
でも一方、パリでは責任感が強く子ども思いのミス・クラベルが、マドレーヌを心配するあまりやつれきっている場面も描かれています。
ミス・クラベルは、マドレーヌからのはがきを受け取ると、消印を頼りに迎えに急ぎます。
消印はオンフラール。セーヌ川河口の、ノルマンディーで最も古くて美しい街です。
『マドレーヌ』の絵本は、以前ご紹介した『げんきなマドレーヌ』や『マドレーヌといぬ』が、パリの名所を舞台にしていて、まるでパリのガイドブックのようでしたが、今回の『マドレーヌとジプシー』で、ジプシーサーカスと旅したマドレーヌの行程は、パリだけでなくフランスの各地の縦横に渡っていて、フランス全体のガイドブックのようにもなっています。
ページを追っていくと、雷雨のノートルダム寺院にはじまり、フォンテーヌブローのお城、美しいステンドグラスで有名なシャルトル大聖堂、モンサンミッシェルにカルカソンヌ、セーヌ湾岸のドービルの海岸、パリのサン・ラザール駅。表紙見返しは、アビニョンの橋と、舞台はフランスの南北に渡っています。
迎えにきてもらったマドレーヌは、みんなと船や飛行機、汽車に乗ってパリに帰ったとなっていますが、ほんとうにそれだけの乗り物を乗り継がなければ帰れない、大旅行をしていたことがわかります。
マドレーヌとペピート。ふたりの子どもが、そんな大行程をなんの屈託もなく、心底楽しんで、ジプシーサーカスと旅をしたことはすごいことです!(まあ、本来はありえないことですが・・・。)
マドレーヌとペピートの、柔軟で伸びやかな心。自由を謳歌しつつも冷静で凛としている姿が印象的です。
そしてやっぱり、パリの屋敷に帰ってみると・・・、いつものきっちり2列に並んだ規則正しい生活が待っていましたが、マドレーヌはそれが決して嫌なのではありません。
清潔な衣服に体、きちんと暮らすことの心地よさを、マドレーヌはしっかり理解しています。ここもマドレーヌの凛としていていいところ。
それもやっぱり、いつも女の子たちを暖かく見守るミス・クラベルの愛情と、11人の女の子たちとの友情あってのことということも伝わってきます。
屈託がなく、底抜けに明るく楽しい旅のお話。
行って帰って落ち着いて、心晴れやかになごむ絵本です。
遊び心いっぱいで美しいフランス各地が描かれたこの美しい絵本を見ていると、こちらもマドレーヌといっしょに旅をしている気分になってきます。
時節柄、長い春休みはあるけれど、とうてい旅行という感じにはなれない今。こんな楽しい絵本で、心の旅をしてみるのもいいのもだなと思いました。
なお、「ジプシー」という呼称は、今日では不適切な表現とされているようですが、この絵本は古典的作品であるとの評価にのっとって、初版時のママの表記とされているそうです。
今回ご紹介した絵本は『マドレーヌとジプシー』
1973.5.10 福音館書店 でした。
マドレーヌとジプシー | ||||
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