昔話風の素朴でおおらかなお話絵本
2人の元図書館員が書いた楽しく暖かいお話集です。
読み聞かせ目安 中学年 5分~ ひとり読み向け
あらすじ
小さな男の子のアンドルーシクは、赤ちゃんのとき、古い国から新しい国へやってきました。
カチューシカおばさんも、アンドルーシクが4つのときに、古い国からやってきました。
カチューシカおばさんの持ってきたものは、おばさんの飼っているがちょうの羽で作ったふかふかの羽根布団と、おばさんが市場へいくときにはおる、めのさめるようなショール。おばさんが土曜日ごとに、アンドルーシクのために作るクッキーに振りかける、けしつぶ5ポンドです。
ある土曜日の朝のこと。
おばさんはクッキーを焼いて、テーブルの上で冷ましているあいだ、市場にいこうと思いました。
アンドルーシクに、子猫や犬に触らせないよう、クッキーの見張りをさせて出かけます。
「はあい、よく わかりました!クッキーを みはっています」
アンドルーシクはうけおいましたが・・・。
クッキーの見張りなんか何もせず、羽根布団の上で、ぴょんぴょん跳ねて遊んでばかり。
「がぐう、ががあ、ががあ」
やがてがちょうがやってきて、布団の羽を返せと大暴れ。
アンドルーシクが、けしつぶクッキーをやってなだめると、食いしん坊のがちょうは、全部食べてしまいました。
市場から帰ってきたカチューシカおばさんが、がちょうを捕まえようとすると・・・。
けしつぶクッキーをお腹いっぱい詰め込んだ、がちょうのお腹か破裂して・・・
部屋中に羽が飛び散りました。
またもう1枚
羽根布団ができますよ。
けしつぶクッキー |
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読んでみて・・・
素朴でほのぼのとしたお話集です。
アンドルーシク、カチューシカおばさんなどといった登場人物の名前や、絵の雰囲気から、てっきりロシアの昔話かと思いきや・・・、この本の作者は、マージェリー・クラークとあります。この作者名は、メアリ―・E・クラークとマージェリー・C・クィグリーという、2人の名前が合わさったペンネームで、この本は、アメリカで図書館員をしていた2人の女性からなる、創作のお話集なのだそうです。
この本には、あらすじでご紹介した「けしつぶクッキー」のほかに、全部で8つの短いお話が収められています。「けしつぶクッキー」のあと、
「こんにちは、白やぎさん」
「ピクニックのおべんとう」
「エルミンカと 赤いブーツ」
「エルミンカと 木ばこのにわとり」
「池におちたエルミンカ」
「かきねの あなから」
「おちゃのおきゃくさま」
というお話が続き、「白やぎさん」「おべんとう」は、「けしつぶクッキー」に引き続き、アンドルーシクとカチューシカおばさんのお話。「エルミンカ」と題するお話は、その名のとおり、エルミンカという女の子のお話になっています。このエルミンカのおじさんの家が、アンドルーシクの家のお隣で、エルミンカがおじさんの家にお泊りにいって、アンドルーシクやカチューシカおばさんと関わっていくのが、あとの2つのお話です。
どのお話も、屈託なく、のびのびとした子どもの楽しいお話です。
アンドルーシクもエルミンカも、いつも失敗ばかり。
布団の羽が飛び散ったり、お弁当が白鳥とともに川に流れていったり、大きすぎるブーツを履いて、すってん転んで畑をめちゃくちゃにしたり・・・。
大人からすると、いつも大変な有様を見せてばかりなのですが、アンドルーシクもエルミンカも、悪気など全くなく、変にいじけたりもせず。それを見たカチューシカおばさんや、エルミンカのお父さんお母さんといった大人たちも、とてもおおらかで、むしろ起こった事態を楽しんでいるようです。
そして、がちょうややぎ、白鳥といった動物たちが、ちょっとふてぶてしくてユーモラス!
魅力的な登場人物たちばかりなんです。
絵も、一見ロシア風のフオークロア調。素朴で暖かみのある民芸品のような作りになっています。
1話ずつ、背景をぐるりと囲む、縁飾りのような絵が、テクストページに施されてあって、素朴でいながら華やか。同じ絵柄の繰り返しが、まるで古くから語り継がれてきた昔話を思わせるような感じもしてきます。
語り口も、アンドルーシクの
「はあい、よくわかりました!」
や、エルミンカのお母さんの
「おとうさん、きょう エルミンカは なにを したと おもいますか?」
と、お決まりの文句が繰り返され、お話にリズムと安定感を与えながら、ここでも昔話的な雰囲気を漂わせています。
マージェリーとクラークの2人はきっと、図書館員として子どもたちと直に触れ合いながら、実際にストーリテリングをしながら、身をもって子どもの好むお話の筋や展開をよく知ったうえで、この本を作ったのだろうなと感じます。図書館でたくさんの子どもと触れ合い、子どもとたくさんの本を読んできた人たちだからこそ、できた本なのだろうと思います。
絵本といっても、お話が8編あって、文章中心の本なので、学校での朝の読み聞かせでは、1・2編選んで読んだり、1編だけにして、あとは他の絵本と組み合わせて読んだりすると、時間的にちょうどいいかと思います。一応ひとつながりのお話ではありますが、1編だけ読んでも、十分楽しめるようになっています。
また、絵本でありながら絵だけに頼らず、しっかり文章も読んでいける本なので、絵本からお話の本のひとり読みへ、移行していく時期の子どもにも向いています。
絵本とお話の本の中間にあたる本は、なかなか優れたものに出逢えないので、貴重な1冊だと思います。
読み聞かせでもひとり読みでも楽しく、暖かくおおらかな気分になれる優れた1冊です。
今回ご紹介した絵本は『けしつぶクッキー』
マージェリー・クラーク作 モウドとスミカ・ピーターシャム絵 渡辺茂男訳
2013.10.20 童話館出版 でした。
けしつぶクッキー |
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