元旦に福来る
正月にふさわしい日本的な美しさゆかしさに満ちた絵本です。
読み聞かせ目安 低学年 3分
あらすじ
むかしあるところに、貧乏なじいさんとばあさんがあった。
ある年の大晦日。じいさんは編み笠を五つこしらえ、町で売って、正月の餅を買おうとした。
「かさや、かさや。かさは いらぬか」
けれども、誰も買ってはくれない。
じいさんは仕方なく、何も買わずに雪道を帰っていった。
そのうち日が暮れ、吹雪になった。
吹雪の野原を見ると、地蔵さまが雪にさらされ、顔からつららを垂らしている。
「あやぁ、むごいことだなあ。はだかで ゆきを かぶって さぞ さむかろう」
じいさんは、売り物の笠を順々に地蔵さまに掛けたが、一つ足りない。自分の被っている笠を脱いで被せてやった。
家に帰ってばあさんに、笠は売れなくて、代わりに地蔵さまに被せてきたと話したら、ばあさんは喜んで、二人してつましい正月を迎えることにした。
すると、正月の明け方、じいさんとばあさんが寝ていると、掛け声をかけながら、そりを引いてくる音がする。
「よういさ、よういさ、よういさな」
じいさんが、雨戸を開けてみると・・・
編み笠を被った六地蔵さまが、そりを引き引きやってきては、重い俵を軒端に下ろして帰っていった。
俵の中には、正月の餅や魚、宝や黄金までどっさり詰まっていた。
それからじいさんとばあさんは、幸せに暮らしたそうな。
読んでみて…
よく知られたおなじみの日本の昔話です。
「かさじぞう」の絵本は、数ありますが、赤羽末吉の絵によるこの絵本は、出色の出来です。
全ページに渡り、紺色の和紙をベースに、見開きいっぱいに扇形の絵が広がっています。扇の形が、いかにも日本的な昔話の雰囲気を盛り立てています。また、読む者が扇を広げて、物語空間を覗いて見ているような感じもして、非日常へといざなう効果も抜群です。
色味も渋めで、昔のおじいさんとおばあさんのお話らしく、落ち着きがあって、かつほのぼのとした暖かみがあります。
おじいさんやおばあさん、お地蔵さまたちの顔も、やさしく慈愛に満ちた雰囲気にあふれています。
寒い冬の大晦日。雪深い国のお話として描かれていて、おじいさんとおばあさんは貧しいけれど、寒さ冷たさより、ほっこりとした暖かさのほうがより伝わってくる絵本になっています。
雪の描き方も、それぞれのページで異なっていて、それぞれ違う味わいがあります。
市場で、おじいさんの笠が見向きもされずにいるときは、冷たそうな雪。
笠が売れず、正月の買い物も何もできずに帰っていくときの雪は、体に当たると痛そうなほどの吹雪。
でも、六地蔵さまのところに降っている雪は・・・、まあるい水色の柔らかそうな雪!!
白地に水色のまあるい雪が、神聖さと、雪ではあるものの暖かみを感じさせる、ぽわんとした感じになっていて、冷たい心がほぐれるような感じになっているのです!
以前、地域の図書ボランティアの研修会で、赤羽末吉の息子嫁である赤羽茂乃氏の講演を聞いたことがあります。
茂乃氏によると、末吉はこの『かさじぞう』を描くために、雪山に何度も登り、様々な雪の様態を観察し、スケッチしていたのだそうです。
粉雪、ボタン雪、吹雪、みぞれ・・・etc。
自ら寒い雪山に入り、いろいろな雪のいろいろな姿を自ら感じ取り、この絵本に描き込んでいったのですね。
そのかいあって、実に表情豊かな雪の表現が出来ていると思います。
テクストの方も、東北の言葉らしいゆったりとした口調で語られ、素朴な昔話の雰囲気が良く出ています。
雪が「もかもか」降ってきた、お地蔵さまが「のっこのっこ」と帰っていったといった、オノマトペの使い方も独特で、暖かい昔話の雰囲気が良く伝わってきます。
ただ、この絵本は、絵もテクストもとても素晴らしいのですが、ひとつだけ残念なところがあります。
元日の朝、おじいさんとおばあさんの元へ、お地蔵さまがやってきたとき、おじいさんが何かと思って雨戸を開けるページです。
テクストは、
「はてな、そりひきは、おらうちの ほうへ きたようだと、おきてみると、かけごえが もっと おおきくなって、
『よういさ、よういさ、よういさな。六だいじぞうさ かさとって かぶせた じいぁ うちは どこだ、ばあぁ うちは どこだ。よういさ、よういさ、よういさな』
と、きこえてくる。じいさんは、おもわず、
『おお、ここだ、ここだ』と、こえをかけて、がらりと あまどを あけてみた。」
となっていて、このページのテクストの最後のところで、おじいさんは雨戸を開けてはじめて、お地蔵さまが来ているのを知るわけなのですが、このページの絵にはもうとっくに、そりを引いたお地蔵さまが描かれているのです。本を見ている子どもたちは、もうすでに事態がわかっている・・・。
やっぱり、「がらりと あまどを あけてみた。」で初めて、この光景を子どもたちに見せたいものです。
なので、このページ分は、テクストをあらかじめ覚えておいて、前のページ、おじいさんとおばあさんが、まだ寝床で聞き耳を立てている絵のところでテクストを先取りして語り、「あけてみた。」で、がらりとページを、雨戸を開けるように開いて、見せてあげるようにしています。
けれどもこのページは、そういった難点はあるものの、絵としてはとても美しいもので、元旦の明け方のほの白い水色の空や雪野原が、清澄ですがすがしく、おじいさんとお地蔵さまの行いの清らかさが、染み入るように伝わってくるとてもいい絵になっています。
そして、最後のページ!
お地蔵さまから届けられたたくさんの俵から、正月の餅や魚、黄金が出て来て、おじいさんとおばあさんが喜ぶ場面の華やかな美しさ!!
見開きの扇の形が、ぱっと柔らかい黄色に輝いた中に、紅白の餅や橙、松の緑が鮮やかに映えて、とてもめでたく、華やかな正月の喜びに満ちたものになっています。
現代人は、毎日せわしく忙しく暮らしてばかりいますが、大晦日から正月にかけてくらいは、ゆったりと、日本的なゆかしさ美しさに満ちた、このように優れた絵本を読んで過ごしてみたいものだなと思いました。
今回ご紹介した絵本は『かさじぞう』
瀬田貞二再話 赤羽末吉絵 1961.1.1 福音館書店 でした。
かさじぞう |
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