燃え盛る大地と影
神秘的で強烈な印象の絵本。不思議な味わいのある絵本です。
読み聞かせ目安 高学年 8分
あらすじ
影ぼっこの住処は森の中。
夜になると、焚火のそばに現れて、ふらふら踊る。
影ぼっこはしゃべらない。眠らない。
影ぼっこは、地面に張り付く影の国の生き物の母。
影ぼっこは、いたずら好きの妖精。
昼間の影ぼっこは、生き生きと嬉しそう。
獣といっしょに走り回ったり、石にべったりくっついたり、魚といっしょに泳いだり。
影ぼっこは人にもつきまとい、戦にもいく。
影ぼっこは、魔法使い。
上にも下にも、右にも左にも、前にも後ろにも、どこにでもいる。
日暮れになると影ぼっこは広がり、どの丘も、どの塚も、影で倍ほど大きくなる。
そして夜になると、影ぼっこは重く重くなる。
誰も影ぼっこには逆らえない。
影ぼっこって、なにかしら?
読んでみて・・・
不思議な絵本です。
最初は、不気味さ、怖さ、強烈なイメージに圧倒されます。
燃え立つような太陽や炎の中で、揺れ踊る黒い影。
めまいがしそうなほど鮮烈で神秘的です。
独特な、コラージュのような手法で描かれたマーシャ・ブラウンの絵は、彼女が東アフリカを旅した時、見た風景、受けた鮮烈な印象をもとになっているのだそうです。
テクストは、フランスの詩人で小説家のブレーズ・サンドラールによる「魔法使い」というタイトルの散文詩で、やはりサンドラールが、アフリカで見聞きした、呪い師や火を囲んで話す語り部たちの物語からイメージして詠いあげたもの。マーシャ・ブラウンが、何年もの間、この詩の神秘的な印象に取りつかれていて、その思いが、アフリカを旅した時、見た景色と重なって、この絵本に結実したのだそうです。
「影ぼっこ」って一体何でしょうか?
単に、日光や炎に照らされて映し出される影ではありません。
もちろん単純な影を指していることもあるけれど、もっともっと神秘的なもの。人知の及ばないところのものを指しているようです。
日常の近代的な生活を表(光)とすると、その裏(影)にあたるものでしょうか。
科学的なものでは割り切れないもの、といった感じです。
森の中に住み、夜になると炎の側に現れて、ふらふらゆらゆら踊る影ぼっこ。
しゃべらず眠らず、いつでも辺りを見張っている影ぼっこは、祭りや儀式の場に現れ、時に陽気に、時に悲しく揺れ踊ります。生や死、幸不幸と寄り添って。
地面に張り付いている影ぼっこは、蛇やサソリ、地面を這い回る生き物、影の国の生き物の母でもあります。
なんだか恐ろしい影ぼっこですが、死神ではありません。
昼間は生き物たちとともに、生き生きと動き回り、走ったり踊ったり、くつろいだりします。
闇の世界の王である影ぼっこは、夜に最も力を発揮します。
道という道を占領し、誰も通せなくしてしまいます。誰も影をどかせられませんから。
重い重い影には、ワシやコンドルといった世界一強い鳥たちも逆らえません。
不気味に変わる影の精である影ぼっこ。
火が灯された瞬間に現れる影ぼっこは、過去の信仰や亡霊と未来を繋ぐ神聖な絆でもあります。
影ぼっこは、きっと近代的知では割り切れないもの、科学の及ばないところのもののことなのでしょう。それは決して前近代とか未開というのでも、いずれ科学が及べば解るようになるものでもないもの。
近代文明の科学の発達は、それまでわからなかったもの、不思議と思われていた現象など、影の世界をどんどん解明し、すべてを明るみに出し、白日のものとしてきました。科学万能の世になって、近代人はすべてが科学の力で明らかになった、まだわかっていないことも、いずれすぐにわかるようになると思いがちです。けれどもそうではないこと、人知の及ばないところや、及んではいけないところ、及んだとしてもそれでもなお残る影や闇の世界があることを、この影ぼっこは示しているのではないでしょうか。
西洋の詩人と画家が、野性あふれるアフリカの地で、燃え盛る太陽に照らされた大地と、日が沈んだ後、突然やってくる神秘的な闇を見たとき、このようなことをきっと強烈に感じ、詩と絵本に仕立てたのではないだろうかと思いました。
なかなか言葉では言い表せない、神秘的で独特な味わいの絵本です。
この雰囲気、言葉では言い尽くせないので、せひ一度実際お手に取って、この強烈な印象を、独特な雰囲気を、感じていただけたらいいなと思います。
幼い子どもが見るのには、もしかしたら、ちょっと怖いかもしれません。少し大きな子どもや、大人がじっくり味わうタイプの絵本のようにも感じました。
今回ご紹介した絵本は『影ぼっこ』
ブレーズ・サンドラール文 マーシャ・ブラウン絵 尾上尚子訳
1983.12.15 ほるぷ出版 でした。
影ぼっこ | ||||
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