労働者たちへの暖かい眼差し
生活を底辺で支える労働者たちへの賛美が感じられる絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
ハンバートは、屑鉄集めのファンキーさんの荷車を曳く馬でした。
ファンキーさんと一緒に、屑鉄を集めながら、ロンドンの町をまわります。
ファンキーさんが、お昼を食べるときは、そばのビール工場の馬屋で休みます。
ビール工場の馬たちは、ハンバートよりずっと大きくて、自慢屋でした。
いつも自慢するのは、ロンドン市長さんの金の馬車を曳くこと。
屑鉄荷車曳きのハンバートは、いつもばかにされていました。
ある日のこと。
ビール工場の馬たちは、念入りに手入れされ、新しい市長さんのパレードの馬車を曳く準備をしていました。
ハンバートは羨ましくて、夜も寝られないほどでした。
パレードの当日。
ハンバートも、大勢の人たちと一緒に、ビール工場の馬たちが、市長さんの金の馬車を曳くのを見ていました。
「ああ いいなあ」と思っていると・・・。
大変!
馬車の車輪がひとつ、壊れてしまいました‼
市長さんは馬車を降り、代わりの自動車がやってきましたが、市長さんは馬車を用意しろといいます。
そこへ、止める人山を掻き分けて、出てきたのはハンバート!
ファンキーさん荷車ともどもひっぱって、市長さんの前へ飛び出したのです。
市長さんは喜んで、ハンバートの荷車に乗りました。
町のみんなは拍手喝采!
ビール工場の馬たちも、おとなしくハンバートを見送りました。
市役所に着くと市長さんは、ハンバートとファンキーさんと一緒に写真を撮り、市長就任祝いの宴会に、招待してくれました。
ハンバートとファンキーさんは、宴席で主賓の席に座り、記念のカップを貰い、ビール工場の馬たちのように、年に一度、お休みも貰えるようになりました。
ハンバートは、パレードの日のこと、宴会の夜のことを、決して忘れませんでした。
読んでみて・・・
下積みの地味な労働をしている人たちへの、暖かい眼差しが感じられる絵本です。
屑鉄集めの荷車を曳くハンバート。
太くて短い手足。ずんぐりした、いかにも働く馬といった風貌です。
ハンバートの主ファンキーさんも、ずんぐりとした体形。ガッツリとした大きな手、伏し目がちな表情が、いかにも寡黙な労働者といった感じです。
狭い馬屋に住み、屑鉄を集め暮らしている2人。
物静かだけど友も多く、町の子どもたちからも愛されていて、つつましいけれどお互い寄り添って、穏やかな日々を誠実に送っている様子が、ページを繰るごとに伝わってきます。
ハンバートは、ファンキーさんから大事にされて暮らしていますが、それでも自分よりいい暮らしや、いい仕事をしている馬を見ると、つい羨ましくなったり、みじめになったりしてしまいます。
素直で素朴な感情は隠せません。
そんなところに飛び込んできたハプニング!
市長さんのパレードの馬車が壊れてしまい、名乗りを挙げたはハンバート。
羨ましいお仕事を、自分で取りにいきました。
市長さんもステキです。
丸々とした体を重々しい衣装で包み、まるで王様のような見た目の市長さんですが、性格はとっても気さく。快くハンバートを受け入れ、感謝してパレードを続けます。
ハンバートたちによって、式典の伝統が守られたことに感謝して、礼を尽くすことも忘れません。市長就任パーティーでは、なんと総理大臣や居並ぶ有名人を指しのけて、ハンバートとファンキーさんを、主賓席へ座らせてくれるという好待遇で、感謝の意を表してくれました。
社会の底辺で生活を支えている労働者への感謝、礼を尽くす姿勢が、ごく自然に表現されていてステキです。
ハンバートもファンキーさんも、急遽栄誉ある仕事をすることになって、内心は嬉しくてたまらないのだと思いますが、決して威張らず大騒ぎせず、静かに淡々と仕事をこなしていきます。
でも、その寡黙な表情からは、ふつふつと内側からこみ上げてくる嬉しさが伝わり、満足感が読後まで、いい余韻となって残ります。
バーニンガムの、幾重にも色を重ねた深みのある絵は暖かく、町の労働者たちも、押さえた表情の中に、それぞれがそれぞれの仕事を誠実に行い、生活している様子が伝わってきます。
ビール工場の馬屋で、馬の世話をしている馬丁たち。
鮮やかなブルーの作業着が、ほとんどモノクロに近いページの中に、美しく映え、仕事をしている様子が生き生きと描かれています。
馬たちのどっしりとした体も、働く馬の重量感や力強さが伝わる堂々としたものです。
他にも、注意深く周囲に目をやり、パレードの警備をするお巡りさん。
市役所で、ハンバートたちの撮影をする報道カメラマンたちなどなど、お話の脇を飾る周りに描かれた人々もみんな、それぞれが自分の仕事に没頭しているようすが、渋い画面のいたるところに描き込まれていて魅力的です。
全体的に思い感じの色遣いですが、色の重なりは暖かく、構図もリズミカル。
細かく描き込まれた裏通りや、波止場などの生活感溢れる町の風景も素敵です。
地に足を付けてどっしりと、日々それぞれの仕事をする労働者への、暖かい賛美の眼差しが伝わってくる、美しい絵本だなと思いました。
とかく人々の目がいくのは、表面のキラキラした世界ばかりですが、それらはみな、社会を底辺で支える、実直な労働者たちの働きあってのもの。そんな労働者たちへの、感謝や賛美が、暖かく伝わってくる素敵な1冊です。
今回ご紹介した絵本は『はたらくうまのハンバートとロンドン市長さんのはなし』
ジョン・バーニンガム作 神宮輝夫訳
1999.4.5 童話館出版 でした。
はたらくうまのハンバートとロンドン市長さんのはなし |
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