エスプリの利いた洒落た絵本
視点が変われば違うものがみえてくる、ということを教えてくれえる絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 8分
あらすじ
美しいフランスの街の動物園に、ごきげんならいおんが住んでいました。
動物園は、花壇や野外音楽堂のある公園の中にあって、ごきげんならいおんは、堀をめぐらした大きな岩山のある自分だけの家を持っていました。
らいおんは、公園に来る街の人たちと仲良し。
飼育係の息子のフランソワ、デュポン校長先生、ベンチでいつも編み物をしているパンソンおばさん。みんなごきげんならいおんに「おはよう、ごきげんな らいおんくん」と声をかけてくれます。
らいおんはいつも「ごきげん」です。
ところが、ある朝のこと。飼育係がらいおんの家の戸を閉め忘れているのに気付き、らいおんは、
「ふーん、これは まずいな」
「これでは、だれが はいってくるか わからんじゃないか」
といい、
「まあ いいや。せっかく とがあいているんだ、ぼくのほうからでかけて、まちのひとたちに あいにいってこよう。いつも むこうから きてくれるのだから、きょうは おかえしにでかけなくちゃ」
と街へ繰り出したのです!
街へ出ると、会う人会う人、みんな変な叫び声をあげて、逃げたり卒倒したりします。いつもお行儀のよいデュポン校長先生、三人のおばさん、パンソンおばさん・・・みんな「フウゥゥーーーーー」「フワァーーーーー」「ウーーララ・・・・・・!」と変な叫びをあげて、逃げるのです。
らいおんは訳がわかりません。「みんな ばかなんだな」と思います。
らいおんが街中へ進んで行くと、もう街中おおさわぎ!!
「きゃーきゃー」叫びながら、押し合いへし合い。
そして・・・静かになりました。
・・・そう、街にはひとっこひとりいなくなったのです。
そのうちに、遠くからサイレンの音が聞こえてきました。
消防自動車が、らいおんを捕獲しにきたのです。
らいおんは、何が起きているのかわかりません。見物しようと腰をおろします。
と、その時です!
「やあ、ごきげんな らいおんくん」
という、可愛い声がしました。飼育係の息子のフランソワです!
ごきげんならいおんは、「とても ごきげん」になりました。
やっと自分に声をかけてくれる友達に会えたからです。
それから、らいおんはフランソワと一緒に公園に帰りました。
街中の人々もやっと「さようなら、ごきげんな らいおんくん」と、挨拶してくれました。
それからはもう、らいおんは戸が開ていても、外に出ようとは思いませんでした。
フランソワは毎日、学校帰りにらいおんに会いに来てくれます。
読んでみて…
前回に引き続き「らいおん」のお話です。
前回の『アンディとらいおん』がアメリカの絵本、今回の『ごきげんならいおん』はフランスの絵本です。
ともにらいおんと少年を扱っていますが、雰囲気がずいぶん違います。
どちらも甲乙つけがたい、素敵な絵本ですが、比べて見てみると、『アンディとらいおん』はいかにもアメリカ的。生命力あふれる、躍動感あるダイナミックな描き方で、少年とライオンんの友情を描いています。それに対し、今回の『ごきげんならいおん』は、やっぱりこれまたいかにもフランス的。エスプリの利いた、洒落た表現で少年とらいおんの友情を描いた絵本になっているのです。
『ごきげんならいおん』のらいおんは、常にのんびりひょうひょうとしています。文字通り「ごきげんな らいおんくん」です。
この「ごきげんならいおんくん」が、ある日、檻の戸が開いていたことをきっかけに、「見られる」側から「見る」側へ変わります。視点の変換です。
「見る」側に変わったらいおんの目に映ったものは・・・、いつもと様子が違いました。
立派な紳士の校長先生はひっくりかえり、穏やかに編み物をするパンソンおばさんは、叫び声をあげながら、野菜のどっさりはいった買い物袋を乱暴に投げつけ、街中の人たちがいっせいに、我先にと、自分から逃げ出していってしまったのです。
もちろん、実際、街中に突然らいおんが現れれば、悲鳴をあげ、逃げだすのは当然です。人間としては、そうしなければなりませんが、この絵本では、人間や群衆の持つ二面性、パニックに陥る集団心理が、らいおんのひょうひょうとした目を通して描き出されているのだろうと思います。
立場が変わると、目線が変わると全く違ったものが見えてくる、そういったことを教えてくれているのだと思います。
人間社会への痛切な批判・・・とまではいきませんが、人間社会にはそういった面があるんだよと示してくれているようです。
ですが、「ごきげんならいおんくん」はやっぱりずっと「ごきげんならいおん」です。
最後に、真にらいおんを愛してくれる、フランソワに会えたから。
フランソワは、いつでもどこでも変わらぬ態度で、らいおんに接してくれます。
世の中にはいろんな人がいて、いろんな事があって、それらがみな一通りではなくて、視線をかえるといろいろで、寂しい思いをすることも、腑に落ちないこともあるけれど、真の友情や愛情が、なによりの支えになるんだよということを、この絵本は、フランス流のエスプリの利いた、洗練された都会的な絵で教えてくれているように思いました。
今回ご紹介した絵本は『ごきげんならいおん』
ルイーズ・ファティオ作 ロジャー・デュポワザン絵 村岡花子訳
1964.4 福音館書店 でした。
ごきげんならいおん |
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