自我のめばえ
ラフで伸びやかな絵をとおして子どもの自我のめばえを描いた豊かな絵本。
読み聞かせ目安 低学年 3分
あらすじ
ある夕暮れ。メリーは海辺で、ふたごのかいぞくを見つけました。
メリーは2人を、家に連れて帰り、食べさせたり、身なりを整えさせたり、文字や踊り、楽器の演奏を教えたりetc。お勉強も教えました。
だけど、2人はいたずらばかり。
爪を噛んだり、親指吸ったり、猫のミルクに何か入れたり・・・。
しまいには、手紙を残してボートを盗んで、大海原へ漕ぎだしていってしまいました!
でも・・・、メリーのことは決して忘れず、お誕生日に間に合うように、ちゃんと帰ってきました。
読んでみて・・・
以前ご紹介した『おりこうなビル』(2011.12.20 童話館出版)と同じ、ウイリアム・ニコルソンの絵本です。
『おりこうなビル』と同じく、メリーという名の女の子とそのお人形のお話なのですが、ビルがメリーにとても忠実なお人形であったのに対し、ふたごのかいぞくは、とってもいたずらな反逆者(ww)です。
海辺でかいぞくを拾ってきたメリーは、かいぞくたちに食事を与え、いろいろなことを教えます。はじめのうちはふたごのかいぞくも、大人しくいうことを聞いていましたが、しだいに好き勝手なことをするようになり、ついには置手紙をして家出‼
大事なお人形のビルを忘れて、お出かけしてしまったメリーを、必死で追いかけるビルとは真逆です。
この、まるで対になっているような2冊の絵本は、お人形をとおして、子どもの心のあり様や成長過程を、それぞれの側面から描いているのだろうと思います。
『ビル』には、子どもの賢さや強さ、純粋さを。
そして『かいぞく』には、子どもの自我のめばえを。
魔の2歳児のイヤイヤ期から、ギャングエイジの小学校中学年。そして思春期。
子どもを育てていると、しばしば向き合う反抗期。
親の手を振り切って、自分で好きな所へ歩いていこうとする子ども。
どうしても自分の言い分を通そうとして、我を張る子ども。
正面から付き合っていると、大人の方もホトホト困って、疲れ果ててしまうものですが、子どもが自我を育て、自己を確立していくためには必要な成長過程です。
『ふたごのかいぞく』には、そんな子どもの自我のめばえ、自己主張の始まりが、屈託なく伸び伸びと、描かれているのだろうと思います。
明るい多色の石板刷りの絵、手描き風のテクスト。ともにラフで気取りがなく、子どもの素朴な心を、そのまんま表しているようです。
ふたごのかいぞくの衣服をかいがいしく整えるメリーは、まるでお母さんのよう。
お母さんのまねをしたい子ども心も、よく見えます。
ふたごのかいぞくも、教えられたとおりに服を着たり、食事したり、勉強したりするときは、一生懸命手を貸し合ってやっている姿が微笑ましく、かわいらしい子ども姿にほっこりします。
メリーと踊りを踊っているところなんて、蠟燭の灯に照らされたオレンジ色の影まで、ゆらゆら踊って楽しそうです。
家出をしたふたごが臨む海はというと、晴れて自由の身になって出てきた海なのに、どんより暗くて、波も荒く、家出してきたものの、不安でたまらないふたごのかいぞくの心が、ラフなタッチの中にも、情感深く描かれています。
ふたごのかいぞくにはモデルがあって、作者ウイリアム・ニコルソンの娘ナンシーの手作りしたストッキング人形の写真が、この絵本のあとがきに載っています。ふたごのかいぞくそっくりの、素朴でユーモラスなお人形です。
ユーモラスといえば、お話の最後のページの絵もおもしろく、ボッティチェリの『ヴィーナス誕生』を、海上版にもじったような「かいぞく誕生」の絵になっていて、愉快で洒落ています。
家出したかいぞくですが、ちゃんとメリーのお誕生日に間に合うように帰ってくるのも、いじらしく愛らしくて、最後はほっと安心できるのもいいところ。かいぞくの反抗心に共感して読んでいた子どもたちも、最後は帰るところに帰れて、安心して読み終えることと思います。
一見雑駁な感じもする絵本ですが、素朴に見えながら実は洗練された絵が多くを語り、子どもの自我のめばえと、自己確立への歩みをはじめるという大切な成長過程を、さらりと描いた豊かな絵本だと思いました。
今回ご紹介した絵本は『ふたごのかいぞく』
2010.1.1 復刊ドットコム でした。
ふたごのかいぞく | ||||
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