心が通じ合う喜び
やんちゃな白犬が黒犬に?!無邪気で楽しい絵本です。
読み聞かせ目安 低学年 5分
あらすじ
黒いぶちのある白い犬のハリーは、お風呂が大嫌い。ある日、体を洗うブラシを裏庭に埋めてしまいました。
それから外へ抜け出し、工事現場で泥んこになり、鉄道橋脚の上でススだらけになり、友達と鬼ごっこしてもっともっと泥んこになり、石炭トラックの滑り台で真っ黒けに!元々は白い犬なのに、白いぶちのある黒い犬になってしまいました。
遊び疲れてお腹ペコペコになったハリーは、家に帰ります。
すると・・・家の中から、
「うらにわに へんないぬが いるよ。そういえば うちのハリーは、いったい どこへ いったのかしら?」
という声が!
ハリーは、自分がハリーなんだということを、一生懸命教えようとします。逆立ちしたり、宙返りしたり、死んだまねしたり、ダンスしたり。知っている芸当を全部やってみせます。
でも、家の人たちは黒犬になってしまったハリーを、ハリーだと気づいてはくれません。
ハリーはがっかりして外の方へ向かいます。
でもでも、その時いいことを思い付きました!
ハリーは、裏庭にかけて行って穴を掘り、ブラシを掘り出し、くわえお風呂へいちもくさん。
女の子が、気づきます。
「このわんちゃん おふろに はいりたがっているのよ!」
ハリーは、お風呂に入り、ブラシでこすってもらい真っ白に!!
「ハリーだ!ハリーだ!やっぱりハリーだ!」
みんなは声をそろえて言い、ハリーはしっぽをブルンブルン。
ハリーは、晩ごはんを食べ、お気に入りの場所でぐっすり眠りました。
自分の家ってなんて気持ちいいんだろうと思いながら。
読んでみて…
表紙には二匹の犬。一匹は黒いぶちのある白い犬。もう一匹は白いぶちのある黒い犬。この二匹が、合わせ鏡のように配置され描かれています。裏表紙にも同じく二匹の白犬と黒犬が、交互に向かい合わせに描かれています。
この二匹は色こそ違え瓜二つ。それもそのはずこの二匹は同じ犬。この物語の主人公ハリーです。
お話を読み進めていくうちに、子どもたちはこの表紙の二匹の犬の意味していることが、「ああ、そういうことね。」とわかるようになります。機知とユーモアのあふれる洒落た装丁です。
お話の方も、機知とユーモア、楽しさいっぱい。
ハリーという無邪気で元気いっぱいの犬が、生き生きと表情豊かに描かれています。
黒の濃淡で描かれたハリーの姿は、飛んだり跳ねたり走ったり、体中で無邪気に遊ぶ楽しさを表していて、見ている子どもも大人も、その楽しそうな姿にぐんぐん引き寄せられます。
黒いぶちのある白い犬が、白いぶちのある黒い犬になってしまう。そんなにまで泥んこになって遊ぶハリーは、無邪気に泥んこ遊びをする子どもそのものといった感じです。汚れることなどお構いなしで、面白そうな遊びに興じます。
ハリーと同じく泥んこ遊びが大好きな子どもたちは、ハリーと一緒になって工事現場で穴を掘ったり、煤や石炭にまみれて、心ゆくまで泥んこ遊びを楽しむことでしょう。そして、ハリーが真っ黒になってしまい、家族からハリーだとわかってもらえなくなったのを、ハリーと一緒になって、ハラハラしたり、ドキドキしたり、がっかりしたりすることと思います。そうして、ついに、ハリーだとわかってもらえた時、ホッと安心して嬉しくなる。
この本を読む子どもたちは、ハリーと一緒になって心を動かし、自分というものを受け入れてもらえる安心感と、この上ない喜びを感じることができます。無邪気に楽しく遊んだあと、ハラハラスリルを味わい、最後はホッと安心して喜ぶ。子どもが物語に求める感情がすべて盛り込まれたとても楽しい絵本です。
絵の色合いも、白地に黒の濃淡というベースに加えられた、若草色と橙色の配色が、絵に暖かみと明るい爽やかさを与え、このお話の楽しさをいっそう引き立てています。
低学年の子どもたちはもちろん、もっと小さな泥んこ遊びが大好きな未就学児の子どもたちにも、きっととても喜ばれる絵本だと思います。
それから、この『どろんこハリー』を糸口に、高学年から中学生向けに紹介したい童話が一編あります。
芥川龍之介(1892~1927)の「白」というお話です。
「白」は、大正12年『女性改造』に発表された童話で、「蜘蛛の糸」に始まる芥川の童話活動7作目にあたるものです。
この「白」も、ハリーと同じく、もともと白い犬だったものが黒い犬になってしまうお話です。
主人公の犬の名前は、そのものズバリ「白」。「白」は勇気がなくて、友達の「黒」を犬殺しから救うことができず、その報いからかいつのまにか黒犬に変わって、飼い主に気づかれず野良犬となってしまい、市中をさまよいながら善行を積み、最後は白犬に戻ることができて、飼い主の元へ戻るというお話です。
『ハリー』と似た趣向ですが『ハリー』とは違って、主人公の犬が、心の葛藤、艱難辛苦を乗り越え家に帰るというもので、大きくなった子どもたちには、十分読み応えのあるものになっています。全集本はもちろん岩波や新潮の文庫本にも収められているので、手軽に入手することができておすすめです。
蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 | ||||
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蜘蛛の糸/杜子春改版 | ||||
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今回ご紹介した絵本は『どろんこハリー』
ジーン・ジオン作 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 渡辺茂男訳
1964.3.15 福音館書店 でした。
どろんこハリー | ||||
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