絵本とむかしばなし

小学校で絵本の読み聞かせや昔話のストーリーテリングをしています。楽しいお話、心温まるお話をいろいろご紹介していこうと思います。

『雨、あめ』

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素敵な雨の1日

飽かずずっと眺めていたい贅沢な絵本です。

            

読み聞かせ目安  中・高学年  ひとり読み向け

あらすじ

庭で姉と弟が遊んでいます。

おや?雨が降ってきました。

2人は家に駆け込み、レインコートを着て、長靴を履いて、傘を差して・・・

さあ!雨のお散歩です。

 

雨どいからザーザー流れ落ちる雨で遊び、大きな水たまりを飛び越え、家の外へ。

雨粒がキラキラと縦横にかかった蜘蛛の巣。

木陰や物陰では、リスやネズミが雨宿り。

花も雨に打たれてしなだれています。

 

道行く車にザバーっと水をかけられたり、すってんころりんしてみたり。

排水口にはゴーゴーと水が流れ込んでいきます。

橋の下では、水鳥たちが楽しそう。

 

次第に雨脚が強くなり、辺りが暗くなってきました。

2人は走り、家に帰ります。

 

温かいお風呂でとおやつで、冷えた体を暖めました。

外はまだ雨。

 

夜。まだ雨は降っていますが、次第に雨脚が弱まってきたのでしょうか。

雲間から、大きな月が出てきました。

 

そして、朝!

空は明るく晴れ渡り、雨に濡れた朝の庭は、明るい陽の光にきらめくのでした。

                     

読んでみて・・・

字のない絵本です。

美しくみずみずしい水彩の絵が、マンガのコマ割りのように全編に配され、絵で物語を語っていきます。文字はないけれど、細部まで丁寧に描き込まれた数々の絵が、言葉以上にお話を語っています。

 

表紙を開くと、見開きには2人の姉弟が、花が咲き乱れる、緑豊かな美しい庭で遊んでいます。

まだ日が差していますが、遠い空には黒い雲がかかってきたようです。

そして、つぎのページになると、姉弟の上にも雨が降ってきました!

猫は急ぎ軒下へ逃げ、子どもたちも家の中へ・・・と思ったら、雨具を身に付け完全装備で、雨の中のお散歩へ出かけていきます。

雨を嫌がるのでなく、待ってましたとばかりの、楽しい雨のお散歩です。

 

物干し竿や電線から滴り落ちる雨。

雨どいや廃水パイプからザーザー流れ落ちる雨。

しとしと降る雨。横殴りの雨。

様々な雨の様子が、それぞれに触れる子どもたちの反応とともに、生き生きと描かれていきます。

 

子どもたちが歩く、地面の水紋も美しく、まるで上品な布地の模様のよう!

蜘蛛の巣にかかった、きらめく雨粒。

自然のなかで、様々な姿を見せる雨と、その一粒一粒の雨に出会ったときの、子どもたちの驚きの眼差し。自然のなかで目を見張っている感覚が、本当に生き生きと、みずみずしく伝わってきます。

きっとこの絵本を眺める子どもたちも、たくさんの絵に描き込まれた、ひとつひとつを発見しながら、共感したり気づいたり、楽しみながら、自分も雨のお散歩に出かけていきたくなることでしょう。

 

雨脚が強まり、2人が駆けて帰ったおうちも素敵です。

お母さんが迎えてくれた家は、熱いお風呂が沸いていて、冷え切った2人の体をホカホカに温めてくれます。

暖かで、親し気で、居心地のよい我が家。

おうちの安心感や暖かみが、言葉で語らずとも、絵が十二分に語ってくれています。

 

絵自体も、透明感のある水彩で、雨と自然の美しさと、雨と戯れ驚き目を見張る子どもたちの新鮮な感性を描くのにぴったり。

暗く垂れこめる雨雲も、そぼ降る雨も、土砂降りの雨も、晴れる過程の月夜も、うっとりとするような詩情があります。

そしてなんといっても、晴れた朝の庭の、限りなく明るくきらめく美しさ!

本当にすこやかで、見ていて心がぱあっと明るくなります。

生きていることの喜びが感じられます。

 

見開きいっぱいの大きな絵から、カット割りの小さな絵まで、ひとつひとつの絵が、とても丁寧に描き込まれ、完成された一枚の絵になっていて、そんな絵が何枚も一挙に収められているなんて、なんて贅沢な絵本なのだろうかと思います。

すばらしく美しい、宝物のような絵本です。

 

字がないので、残念ながら読み聞かせはできませんが、おうちでゆっくりじっくり、心ゆくまで、隅から隅まで味わってもらいたい素敵な絵本です。

字はなくても、絵本全体にとても生き生きとした動きがあるので、本当に飽きることなく楽しめ、ずっと眺めていられます。絵が言葉以上に物語る贅沢な絵本です。

子どもだけでなく大人も、きっと虜になってしまうような、素晴らしい絵本だなと思いました。私も大好きな1冊です。

                      

今回ご紹介した絵本は『雨、あめ』

ピーター・スピアー

1984.6.5  評論社  でした。

雨、あめ

ピーター・スピアー 評論社 1984年06月
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