微笑ましいこどもの日のお話
絵本から読み物へ進むのにちょうどよい物語絵本です。
読み聞かせ目安 中学年 15分・ひとり読み向け
あらすじ
やかまし村には、家が3件。子どもが7人住んでいます。
ある日ラッセが新聞で、〈ストックホルムの こどもの ひ〉というのを知ると、〈やかましむらの こどもの ひ〉を作ろうということになりました。
〈やかましむらの こどもの ひ〉は、子どもたちの中でいちばん小さい、まだ2歳のシャスティーンのための日です。
大きな子どもたちはみんなで、シャスティーンを楽しませようと、いろんなことをやりました。
朝、ベッドにココアと味付けパンを持って行き、シャスティーンのお気に入りの歌を歌ったり、子馬の背中に乗せてやったり、ブランコに乗せてやったり、お芝居を見せてやったり、子どもたちはいろいろ考えて、シャスティーンにいろいろやってあげました。
シャスティーンはとても喜びましたが、「いやあ、いやあ。」と泣き叫ぶことも多くありました。シャスティーンのお母さんが心配して飛んでくることもあったほど。
結局シャスティーンがいちばん喜んだのは、豚を見たり、にわとりに餌をやったり、羊の子を見たりする普通のことでした。
お姉さんたちとお人形で遊んだり、お外でおやつを食べたり、ごきげんで過ごしていると・・・。男の子たちが、古い引き出しに車輪を付けて、シャスティーンを乗せる特製の車を牽いてきました。
「ヘイヨム フェイヨム。」
歌を歌って、それはすばらしい〈こどもの ひ〉でした。
読んでみて・・・
なんとも微笑ましいかわいいお話です。
村にたった3件しかないやかまし村で暮らす子どもたち。
いつも仲良く暮らしていますが、ある時〈ストックホルムの こどもの ひ〉というのがあるのを知ると、自分たちでも〈やかましむらの こどもの ひ〉を作ることにします。自分たちも「子ども」ですが、この〈やかましむらの こどもの ひ〉は、みんなの中でいちばん小さいシャスティーンのためのもの。
自分たちよりも小さい子を大切にする、優しいお兄さんお姉さんたちです。
でも、そんな思いとは裏腹に、子どもたちの作戦はしばしば失敗します。
シャスティーンは子馬に乗せられたとたん、
「いやあ、いやあ。」
と泣き出したり、ブランコに乗せ、もっと楽しませようと強く押すとまたもや、
「いやあ、いやあ。」
お芝居ごっこの悪者の顔を見せても、
「いやあ、いやあ。」
ジェットコースター代わりに、お腹に綱を巻き付け、窓から吊り降ろし上げ下げ‼したときには、もちろん
「いやあ、いやあ。」
村中に響き渡るほど、火が付いたように泣き出して、お母さんが飛んでくる始末!
決していじめたりしているわけではなく、心の底から良かれと思ってやったことが、次々裏目にでてしまって、笑えるやら、微笑ましいやら、いじらしいやら。
大人の目からすると、ハラハラすることばかりしでかしていますが、子どもなりに一所懸命にシャスティーンを喜ばせようとしているのがわかり、どの子もみんな、かわいく思えてなりません。
子どもの日常には、うまくいかないこと、思っていたこととは全く違う結果になってしまうことがたくさんあります。やかまし村の子どもたちのように、本当に良かれと思ってやったことで叱られることも・・・。
でも、そんな不快経験を積み重ね、克服していくことで、成長していくんですね。
失敗しながらも、その中に楽しみをみつけ、最後は満足して終わる。
やかまし村のように、異年齢の子どもが交わって遊ぶと、こんなちょっとした不快経験を重ねることが、同年齢の子どもたちだけで遊ぶより、きっと多いとことと思います。
でもだからこそ、しなやかな社会性を身に付けられるように思います。
この本は絵本ではなく、テクストが主のお話の本です。
でも、豊富な挿絵が、バランスよく配置され、テクストを程よく補い、お話の展開を支えています。
最初に、登場人物のやかまし村の子どもたちが、ひとり一人絵とテクストでしっかり紹介され、やかまし村の3件の家が、見取り図のように描かれ、読む子どもたちが、お話の中にすんなり入っていけるようになっています。
お話の起承転結もしっかりとしていて、人物の性格もしっかり描き分けられていて、甘ったるい無駄な描写などもなく、すっきりとしていて、子どもたちにはきっと読みやすい優れたテクストになっていると思います。
絵本から読み物のお話の本へ移行する時期の子どもたちの読書に、ぴったりの本だなと思いました。
この本を読んだ後はきっと、やかまし村の子どもたちの暮らしがもっと見てみたくなるでしょう。そうしたら同じくリンドグレーンの本格的な児童文学としての『やかまし村の子どもたち』シリーズをぜひ読んでいってもらいたいなと思います。
屈託のない、素直で健やかな子どもたちの、微笑ましく楽しい1冊です。
今回ご紹介した本は『やかましむらのこどものひ』
アストリッド・リンドグレーン作 イロン・ヴィ―クランド絵 山内清子訳
1983.7.1 偕成社 でした。
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