英仏海峡大横断飛行!
航空界の偉大な先駆者ルイ・ブレリオのお話。
読み聞かせ目安 高学年 10分
あらすじ
1901年。フランスの町カンブレに、ルイ・ブレリオ一家が住んでいました。
ある日のこと。ブレリオ一家が、カンブレの町をドライブをしていると・・・。
「クラッケタ・・・・・・クラッケタ・・・・・・クラッケタ・・・・・・」
はるかかなたの空から、へんな音が聞こえてきました。
何の音?
それは、飛行船の音でした!
カンブレの町に、はじめて飛行船が飛んできたのです!!
ブレリオ・パパは、いあわせた人をみんな招待し、勇ましい飛行士を讃え、乾杯しました。
この日から、ブレリオ・パパは、空を飛ぶことで胸がいっぱいに!!
そして、みんなにいいました。
「わたしも 空飛ぶ機械を つくるぞ。大きな 白い鳥のようなのをな。みんなで うんと がんばるんだ。いまに みんなして、ツバメみたいに すいすい 飛べるようになるぞ!」
それから、まず「ブレリオⅠ号」を作りました。
モーターが付いていましたが、まだまだニワトリぐらいの大きさで、ネコくらいしか乗れません。
次の「ブレリオⅡ号」はグライダーで、人が乗れる大きさになりました。
でも、ちょっと飛んだだけで、川に落ちてしまいました。
「ブレリオⅢ号」は、モーターとプロペラ付き!
でも、水面から離れることができませんでした。
その後、「ブレリオⅣ号」「ブレリオⅤ号」「ブレリオⅥ号」と改良を進め、やっと本当に飛ぶ飛行機「ブレリオⅦ号」ができました!6年の歳月がたっていました。
そんなときです。「ブレリオ号」を世にお披露目する、恰好の機会がやってきました。
『ロンドン・デイリー・メイル紙』で、誰よりも先に、英仏海峡を飛行機で超えた人に、1000ポンドの賞金が出るとの知らせが!
ブレリオ・パパは、「ブレリオⅪ号」で挑みました。
霧が立ち込める朝、パパはひとり「ブレリオⅪ号」に乗り、フランスからイギリスへ。ドーヴァー海峡を渡ります。
そして37分後。ブレリオ・パパは、イギリスに着きました!!
大歓声があがりました。
それはそれは、すばらしい大飛行でした。
読んでみて・・・
フランス航空界の先駆者、ルイ・シャルル=ジョゼフ・ブレリオ(1872~1936)の、飛行機開発のお話です。
町で飛行船に出会ったブレリオは、空を飛ぶことに魅了され、一心に飛行機開発の道へ進みました。もともと自動車のライトの開発などで、財をなしていたブレリオは、それを飛行機の開発・製造につぎ込みます。そして、何度も困難に見舞われながらも、家族の理解・仲間の協力のもと、ついに本当に空を飛べる飛行機「ブレリオⅦ号」が完成!!
この絵本では、ブレリオ・パパのこの無鉄砲な挑戦の過程が、淡々と、それでいてパパの情熱がひしひしと伝わる、暖かい眼差しで描かれています。
絵は、ややおさえたノスタルジックな色合い。古い映画を見ているような風情があります。
はじめて空飛ぶ飛行船を見た人たちの歓喜する表情、「ブレリオ号」それぞれの試運転での、パパをはじめ仲間たちの真剣な眼差し。興味津々で見つめるブレリオの子どもたち。赤ちゃんまでもが、興味深そうに指さして見つめています。一見平面的な絵ですが、人々の表情は豊かです。「ブレリオⅦ号」が空を飛んだ時の、人々の嬉しそうなこと!喜びが「ブレリオⅦ号」とともに、舞い上がっています。
そして表情といえば、何よりいちばん印象的なのは、英仏海峡をひとり渡っていくときのパパの表情。霧の立ち込める海峡上空から、下を見下ろすその表情は、飛行機開発中の楽しそうなそれとは違って、いいようのない孤独と不安に満ちています。
渦巻く霧の大空の中に、小さな飛行機。ひとりぼっちのパパ。空飛ぶことに魅了され、友達も家族も巻き込んで、無鉄砲にはじめた飛行機開発。何度もの試練を乗り越え、困難に立ち向かえば立ち向かうほど、さらなる情熱を注ぎこんできたブレリオ・パパでしたが、いざひとり大空へ旅立ってみると、心細さでいっぱいになっているのが、ひしひしと伝わってきます。頼れるものは、わが身と、心血注いで作りあげた、この「ブレリオⅪ号」だけ。実際、ルイ・ブレリオが、ドーヴァー海峡を渡ったとき、途中でエンジンがオーバーヒートしたり、強風でプロペラや脚を破損したりしたそうで、その初フライトはなかなか困難なものだったそうです。
それでも辛うじて「ブレリオⅪ号」は、ドーヴァー城下の草地に着陸!
フランスを飛び立って36分55秒。約30km離れたイギリスの地に着いたのでした。
ブレリオの偉業は讃えられ、ブレリオはフランス政府から「レジオンドヌール勲章」を授けられ、出発地は「ブレリオ海岸」と名付けられました。もちろんデイリー・メイル紙の賞金1000ポンドも手に入れ、ルイ・ブレリオは大成功をおさめます。
この絵本の、表紙見開きの次のページ、お話がはじまる前の導入部分には、デイリー・メイル紙の紙面を模したページがあります。
「パパの大飛行 ルイ・ブレリオついに英仏海峡横断に成功」
大きな見出しが付けられ、ブレリオ・パパの「信じがたい偉業」が、高らかに讃えられる紙面です。その中に、ブレリオや家族、海峡を渡る「ブレリオⅪ号」の写真に添えられ、ブレリオの談話が掲載されているのですが、そこには
「この地球はもはや、地理的なへだたりを口にすりには小さすぎ、国境も有名無実となったのですから、我々は人類が戦争放棄の責務を理解し、ひとつ囲いにいる仔羊たちのように生きる日の来ることを期待しようではありませんか。これこそ、そして、これのみが、人類の翼がもたらす真実の決定的な勝利でありましょう。」
と書いてあります。
この記事を読むと、ブレリオ・パパが飛行機開発に夢中になったのは、単に空を飛びたいから、飛行機が作りたいからというだけではなく、地理的な国境、領土・植民地の覇権争いにくれる1900年代初頭の世の中に、大空には国境などないこと、地球は、世界はひとつであることを、「国境」とされているところを渡ることで、示したかったからなのではないかと思えてきます。上空から国境なき地球を知らしめす。この思いあったがゆえに、ブレリオはあれほど夢中になって、飛行機開発に突き進んでいったのではなかったかと・・・。
ですが、皮肉なことに、実在のルイ・ブレリオは、この英仏海峡横断成功のあと、第一次世界大戦を機にSPAD社を買収し、ブレリオの会社は軍用機の最大量産メーカーとなっていってしまいます。空飛ぶことに魅せられた男が、歴史の渦に巻き込まれていくさまを、まざまざと見るようです・・・。
でも、まあ、実在のブレリオはひとまずさておき、この絵本はとにかく、一心に空飛ぶ夢を追い、どんな困難にも立ち向かい、飛行機製作に情熱を注ぐブレリオ・パパと、それを支える仲間と家族の暖かい物語を、表情豊かに描きあげた素敵な絵本になっていると思います。
自分の夢、仲間や家族との関係。そして歴史的、社会的状況など、さまざまなものに目を向けられるようになっってきた、高学年の子どもたちに、ぜひすすめたい1冊です。
パパの大飛行 | ||||
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今回ご紹介した絵本は『パパの大飛行』
アリスとマーチィン・プロヴェンセン作 脇明子訳
1986.2.28 福音館書店 でした。
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